51 浮舟(明融臨模本)


UKIHUNE


薫君の大納言時代
二十六歳十二月から二十七歳の春雨の降り続く三月頃までの物語



Tale of Kaoru's Dainagon era, from December at the age of 26 to rainy days in March at the age of 27

6
第六章 浮舟と薫の物語 浮舟、右近の姉の悲話から死を願う


6  Tale of Ukifune and Kaoru  Ukifune desires to kill herself as hearing Ukon talking her sister's unhappy tale

6.1
第一段 薫と匂宮の使者同士出くわす


6-1  Kaoru's messenger runs into Niou-no-miya's messenger at Uji

6.1.1   殿の御文は今日もあり。悩ましと聞こえたりしを、「いかが」と、訪らひたまへり。
 殿のお手紙は今日もある。気分が悪いと申し上げていたので、「いかがな具合ですか」と、お見舞いくださった。
 かおるからまたも手紙の使いが来た。病気と聞いて今日はどうかと尋ねて来たのである。
  Tono no ohom-humi ha kehu mo ari. Nayamasi to kikoye tari si wo, "Ikaga?" to, toburahi tamahe ri.
6.1.2  「 みづからと思ひはべるを、わりなき障り多くてなむ。このほどの暮らしがたさこそ、なかなか苦しく」
 「自分自身でと思っておりますが、止むを得ない支障が多くありまして。待っている間の身のつらさが、かえって苦しい」
 自身で行きたいのですが、いろいろな用が多くて実行もできません。近いうちにあなたを迎えうることになって、かえって時間のたつことのもどかしさに気のあせるのを覚えます。
  "Midukara to omohi haberu wo, warinaki sahari ohoku te nam. Kono hodo no kurasi gatasa koso, naka-naka kurusiku."
6.1.3  などあり。宮は、昨日の御返りもなかりしを、
 などとある。宮は、昨日のお返事がなかったのを、
 こんなことも書かれてあった。兵部卿ひょうぶきょうの宮は昨日の手紙に返事のなかったことで、
  nado ari. Miya ha, kinohu mo ohom-kaheri mo nakari si wo,
6.1.4  「 いかに思しただよふぞ風のなびかむ方も うしろめたくなむ。いとどほれまさりて眺めはべる」
 「どのようにお迷いになっているのか。思わぬ方に靡くのかと気がかりです。ますますぼうっとして物思いに耽っております」
 まだ迷っているのですか、「風のなびき」(にけりな里の海人あまの煙心弱さに)のたよりなさに以前よりもいっそうぼんやりと物思いを続けています。
  "Ikani obosi tadayohu zo. Kaze no nabika m kata mo usiro-metaku nam. Itodo hore masari te nagame haberu."
6.1.5  など、これは多く書きたまへり。
 などと、こちらはたくさんお書きになっていた。
 などとこのほうは長かった。
  nado, kore ha ohoku kaki tamahe ri.
6.1.6   雨降りし日、来合ひたりし御使どもぞ、今日も来たりける。 殿の御随身、かの少輔が家にて時々見る男なれば
 雨が降った日、来合わせたお使い連中が、今日も来たのであった。殿の御随身は、あの少輔の家で時々見る男なので、
 この前の前、雨の降った日に山荘で落ち合った使いがまたこの日出逢うことになって、大将の随身は式部少輔しょうの所でときどき見かける男が来ているのに不審を覚えて、
  Ame huri si hi, ki-ahi tari si ohom-tukahi-domo zo, kehu mo ki tari keru. Tono no mi-zuizin, kano Seu ga ihe nite toki-doki miru wonoko nare ba,
6.1.7  「 真人は、何しに、ここにはたびたびは参るぞ
 「あなたは、何しに、こちらに度々参るのですか」
 「あんたは何の用でたびたびここへ来るのかね」
  "Mauto ha, nani si ni, koko ni ha tabi-tabi ha mawiru zo?"
6.1.8  と問ふ。
 と尋ねる。
 といた。
  to tohu.
6.1.9  「 私に訪らふべき人のもとに参うで来るなり
 「私用で尋ねる人のもとに参るのです」
 「自分の知った人に用があるもんだから」
  "Watakusi ni toburahu beki hito no moto ni maude kuru nari."
6.1.10  と言ふ。
 と答える。

  to ihu.
6.1.11  「 私の人にや、艶なる文はさし取らする、けしきある真人かな。もの隠しはなぞ」
 「私用の相手に、恋文を届けるとは、不思議な方ですね。隠しているのはなぜですか」
 「自分の知った人にえん恰好かっこうの手紙などを渡すのかね。理由わけがありそうだね、隠しているのはどんなことだ」
  "Watakusi no hito ni ya, en-naru humi ha sasi-tora suru, kesiki aru mauto kana! Mono kakusi ha nazo?"
6.1.12  と言ふ。
 と尋ねる。

  to ihu.
6.1.13  「 まことは、この守の君の、御文、女房にたてまつりたまふ」
 「本当は、わたしの主人の守の君が、お手紙を、女房に差し上げなさるのです」
 「真実ほんとうかみ(時方は出雲権守いずものごんのかみでもあった)さんの手紙を女房へ渡しに来るのさ」
  "Makoto ha, kono Kau-no-Kimi no, ohom-humi, nyoubau ni tatematuri tamahu."
6.1.14  と言へば、言違ひつつあやしと思へど、ここにて定め言はむも異やうなべければ、おのおの参りぬ。
 と言うので、返事が次々変わるので変だと思うが、ここではっきりさせるのも変なので、それぞれが参上した。
 随身は想像と違ったこの答えをいぶかしく思ったがどちらも山荘を辞して来た。
  to ihe ba, koto tagahi tutu ayasi to omohe do, koko nite sadame iha m mo koto yau na' bekere ba, ono-ono mawiri nu.
注釈579殿の御文は薫からの手紙。6.1.1
注釈580みづからと思ひはべるを以下「なかなか苦しく」まで、薫の手紙。6.1.2
注釈581いかに思しただよふぞ以下「眺めはべる」まで匂宮の手紙。6.1.4
注釈582風のなびかむ方も明融臨模本、朱合点。『異本紫明抄』は「浦風になびきにけりな里のあまのたくもの煙心弱さに」(後拾遺集恋二、七〇六、藤原実方)。『弄花抄』は「須磨のあまの塩焼く煙風をいたみ思はぬ方にたなびきにけり」(古今集恋四、七〇八、読人しらず)を指摘。6.1.4
注釈583雨降りし日来合ひたりし御使どもぞ前に「雨降りやまで日頃多くなるころ」とあった、晩春三月の春雨の中、来合わせた使者たち。6.1.6
注釈584殿の御随身かの少輔が家にて時々見る男なれば薫の随身は、相手が式部少輔兼大内記道定の家で時々会う下男だったので、の意。6.1.6
注釈585真人は、何しに、ここにはたびたびは参るぞ薫の使者随身の詞。6.1.7
注釈586私に訪らふべき人のもとに参うで来るなり匂宮の使者の詞。6.1.9
注釈587私の人にや以下「もの隠しはなぞ」まで、随身の詞。6.1.11
注釈588まことはこの守の君の以下「たてまつりたまふ」まで、使者の詞。「守の君」は、主人の国司(出雲権守)の君の意、時方。6.1.13
出典26 風のなびかむ方 須磨の海人(あま)の塩焼く煙風をいたみ思はぬ方にたなびきにけり 古今集恋四-七〇八 読人しらず 6.1.4
6.2
第二段 薫、匂宮が女からの文を読んでいるのを見る


6-2  Kaoru looks that Niou-no-miya is reading a letter from woman's one

6.2.1  かどかどしき者にて、供にある童を、
 才覚のある者なので、供に連れている童を、
 随身は利巧りこう者であったから、つれて来ている小侍に、
  Kado-kadosiki mono nite, tomo ni aru waraha wo,
6.2.2  「 この男に、さりげなくて目つけよ。 左衛門大夫の家にや入る」
 「この男に、気づかれないように後をつけよ。左衛門大夫の家に入るかどうか」
 「あの男のあとを知らぬ顔でつけて行け、どのやしきへはいるかよく見て来い」
  "Kono wonoko ni, sarigenaku te me tuke yo. Sawemon-no-Taihu no ihe ni ya iru?"
6.2.3  と見せければ、
 と跡付けさせたところ、
 と命じてやった。
  to mise kere ba,
6.2.4  「 宮に参りて、式部少輔になむ、御文は取らせはべりつる」
 「宮邸に参って、式部少輔に、お手紙を渡しました」
 さきの使いは兵部卿の宮のお邸へ行き、式部少輔に返事の手紙を渡していた
  "Miya ni mawiri te, Sikibu-no-Seu ni nam, ohom-humi ha tora se haberi turu."
6.2.5  と言ふ。 さまで尋ねむものとも、劣りの下衆は思はず、ことの心をも深う知らざりければ、 舎人の人に見表はされにけむぞ、口惜しきや。
 と言う。そこまで調べるものとは、身分の低い下衆は考えず、事情を深く知らなかったので、随身に発見されたのは、情けない話である。
 と小侍は帰って来て報告した。それほどにしてうかがわれているとも宮のほうの侍は気がつかず、またどんな秘密があることとも知らなかったので近衛このえの随身に見あらわされることになったのである。
  to ihu. Sa made tadune m mono to mo, otori no gesu ha omoha zu, koto no kokoro wo mo hukau sira zari kere ba, Toneri no hito ni mi-arahasa re ni kem zo, kutiwosiki ya!
6.2.6   殿に参りて今出でたまはむとするほどに、御文たてまつらす。直衣にて、六条の院、 后の宮の出でさせたまへるころなれば、参りたまふなりければ、ことことしく、御前などあまたもなし。御文参らする人に、
 殿に参上して、今お出かけになろうとするときに、お手紙を差し上げさせる。直衣姿で、六条の院に、后宮が里下がりあそばしている時なので、お伺いなさるものだから、仰々しく、御前駆など大勢はいない。お手紙を取り次ぐ人に、
 随身は大将の邸へ行き、ちょうど出かけようとしている薫に、返事を人から渡させようとした。今日は直衣のうし姿で、六条院へ中宮が帰っておいでになるころであったから伺候しようと薫はしていたのである。前駆を勤めさせる者も多く呼んでなかった。随身が取り次ぎを頼む人に、
  Tono ni mawiri te, ima ide tamaha m to suru hodo ni, ohom-humi tatematura su. Nahosi nite, Rokudeu-no-win, Kisai-no-Miya no ide sase tamahe ru koro nare ba, mawiri tamahu nari kere ba, koto-kotosiku, go-zen nado amata mo nasi. Ohom-humi mawira suru hito ni,
6.2.7  「 あやしきことのはべりつる。見たまへ定めむとて、今までさぶらひつる」
 「不思議な事がございました。はっきりさせようと思って、今までかかりました」
 「妙なことがあったものですから、よく調べてと思いましてただ今までかかりました」
  "Ayasiki koto no haberi turu. Mi tamahe sadame m tote, ima made saburahi turu."
6.2.8  と言ふを、ほの聞きたまひて、歩み出でたまふままに、
 と言うのを、ちらっとお聞きになって、お歩きになりながら、
 と言っているのを片耳にはさみながら、乗車するために出て来た薫が、
  to ihu wo, hono-kiki tamahi te, ayumi-ide tamahu mama ni,
6.2.9  「 何ごとぞ
 「どのような事か」
 「何かあったか」
  "Nani-goto zo?"
6.2.10  と問ひたまふ。 この人の聞かむもつつましと思ひて、かしこまりてをり。殿もしか見知りたまひて、出でたまひぬ。
 とお尋ねになる。この取り次ぎが聞くのも憚れると思って、遠慮している。殿もそうとお察しになって、お出かけになった。
 と聞いた。取り次いだ人もいることであったから随身は黙ってかしこまってだけいた。様子のありそうなことであると見たが薫はこのまま出かけてしまった。
  to tohi tamahu. Kono hito no kika m mo tutumasi to omohi te, kasikomari te wori. Tono mo sika mi-siri tamahi te, ide tamahi nu.
6.2.11   宮、例ならず悩ましげにおはすとて、 宮たちも皆参りたまへり。上達部など多く参り集ひて、騒がしけれど、ことなることもおはしまさず。
 后宮は、御不例でいらっしゃるということで、親王方もみな参上なさっていた。上達部など大勢お見舞いに参っていて、騒がしいけれど、格別変わった御容態でもない。
 中宮ちゅうぐうがまた少し御病気でおありになるということで宮達も皆集まって来ておいでになった。高官たちもたくさんまいっていて騒いでいたがたいしたことはおありにならなかった。
  Miya, rei nara zu nayamasige ni ohasu tote, Miya-tati mo mina mawiri tamahe ri. Kamdatime nado ohoku mawiri tudohi te, sawagasikere do, koto naru koto mo ohasimasa zu.
6.2.12   かの内記は、政官なれば、遅れてぞ参れる。 この御文もたてまつるを、宮、台盤所におはしまして、戸口に召し寄せて取りたまふを、 大将、御前の方より立ち出でたまふ、側目に見通したまひて、「 せちにも思すべかめる文のけしきかな」と、をかしさに立ちとまりたまへり。
 あの大内記は太政官の役人なので、後れて参った。あのお手紙を差し上げるのを、匂宮が、台盤所にいらして、戸口に呼び寄せてお取りになるのを、大将は、御前の方からお下がりになる、その横目でお眺めになって、「熱中なさっている手紙の様子だ」と、その興味深さに目がお止まりになった。
 内記は太政官の吏員であったから、役向きのことが忙しかったのかおそくなって出て来た。そして宇治の返事の来たのを宮に、台盤所だいばんどころへ来ておいでになって戸口へお呼びになった宮へ差し上げていたのをちょうどその時中宮の御前から出て来た大将が何心なく横目に見て、大事な恋人からよこしたものらしいふみであるとおかしく思い、ちょっと立ちどまっていた。
  Kano Naiki ha, Zyaukwan nare ba, okure te zo mawire ru. Kono ohom-humi mo tatematuru wo, Miya, Daiban-dokoro ni ohasimasi te, toguti ni mesi-yose te tori tamahu wo, Daisyau, o-mahe no kata yori tati-ide tamahu, sobame ni mi-tohosi tamahi te, "Seti ni mo obosu beka' meru humi no kesiki kana!" to, wokasisa ni tati-tomari tamahe ri.
6.2.13  「 引き開けて見たまふ紅の薄様に、こまやかに書きたるべし」と見ゆ。文に心入れて、とみにも向きたまはぬに、 大臣も立ちて外ざまにおはすれば、 この君は、障子より出でたまふとて、「大臣出でたまふ」と、うちしはぶきて、 驚かいたてまつりたまふ
 「開いて御覧になっているのは、紅の薄様に、こまごまと書いてあるらしい」と見える。手紙に夢中になって、すぐには振り向きなさらないので、大臣も席を立って外に出てにいらっしゃるので、この君は、襖障子からお出になろうとして、「大臣がお出になります」と咳払いをして、ご注意申し上げなさる。
 宮は引きあけて読んでおいでになる、紅の薄様うすように細かく書かれた手紙のようである。文に夢中になっておいでになる時に、左大臣も御前を立って外のほうへ歩いて来るのを見て、薫は自身の休息室から今出るふうにして大臣の来たことを宮へ御注意するためのせき払いをした。
  "Hiki-ake te mi tamahu, kurenawi no usuyau ni, komayaka ni kaki taru besi." to miyu. Humi ni kokoro ire te, tomi ni mo muki tamaha nu ni, Otodo mo tati te to-zama ni ohasure ba, kono Kimi ha, syauzi yori ide tamahu tote, "Otodo ide tamahu." to, uti-sihabuki te, odorokai tatematuri tamahu.
6.2.14  ひき隠したまへるにぞ、大臣さし覗きたまへる。驚きて御紐さしたまふ。 殿つい居たまひて
 ちょうどお隠しになったところへ、大臣が顔をお出しになった。驚いて襟元の入紐をお差しになる。殿は膝まずきなさって、
 これで宮がお隠しになったあとへ都合よく大臣は来ることになった。宮は驚いたふうに直衣のうしひもを掛けておいでになった。薫も兄の大臣の前にひざを折り、
  Hiki-kakusi tamahe ru ni zo, Otodo sasi-nozoki tamahe ru. Odoroki te ohom-hi mo sasi-tamahu. Tono tui-wi tamahi te,
6.2.15  「 まかではべりぬべし。御邪気の久しくおこらせたまはざりつるを、恐ろしきわざなりや。 山の座主、ただ今請じに遣はさむ」
 「退出いたしましょう。御物の怪が久しくお起こりになりませんでしたが、恐ろしいことですね。山の座主を、さっそく呼びにやりましょう」
 「私はもう下がってまいろうと思います。いつもの物怪もののけは久しくわざわいをいたしませんでしたのに恐ろしいことでございます。叡山えいざん座主ざすをすぐ呼びにやりましょう」
  "Makade haberi nu besi. Ohom-zyake no hisasiku okora se tamaha zari turu wo, osorosiki waza nari ya! Yama-no-Zasu, tada-ima syau-zi ni tukahasa m."
6.2.16  と、急がしげにて立ちたまひぬ。
 と、忙しそうにお立ちになった。
 とだけ言い、忙しそうに立って行った。
  to, isogasige nite tati tamahi nu.
注釈589この男に以下「家にや入る」まで、随身の詞。6.2.2
注釈590左衛門大夫の家左衛門大夫、時方の家。6.2.2
注釈591宮に参りて式部少輔に以下「取らせはべりつる」まで、童の詞。匂宮邸に参上して、式部少輔兼大内記道定に。6.2.4
注釈592さまで尋ねむものとも以下「口惜しきや」まで、語り手の評言。『一葉抄』は「双紙詞也」と指摘。6.2.5
注釈593舎人の人に『集成』は「薫の使者の随身のこと。「舎人」は、近衛の舎人、また近衛府の将監(三等官)以下が勤める。「舎人の人」は「劣りの下衆」に対して、いっぱしの舎人、といった気持。以下「くちをしきや」まで、草子地」と注す。6.2.5
注釈594殿に参りて随身が薫邸に。6.2.6
注釈595今出でたまはむとするほどに薫が自邸を。6.2.6
注釈596后の宮明石中宮。6.2.6
注釈597あやしきことの以下「さぶらひつる」まで、随身の詞。6.2.7
注釈598何ごとぞ薫の詞。6.2.9
注釈599この人の取次の人。6.2.10
注釈600宮例ならず明石中宮。6.2.11
注釈601宮たちも明石中宮腹の親王たち。6.2.11
注釈602かの内記は政官なれば『集成』は「あの大内記は太政官の役人なので(公務多端のため)遅くなって参上した。浮舟の返書を届けるのが遅れて、今に到ったことの説明」と注す。6.2.12
注釈603この御文も浮舟からの返書。大内記は前に使者から渡されていたもの。6.2.12
注釈604大将薫。6.2.12
注釈605せちにも思すべかめる文のけしきかな薫の匂宮を見ての感想。6.2.12
注釈606引き開けて見たまふ匂宮は浮舟からの手紙を。6.2.13
注釈607紅の薄様にこまやかに書きたるべし薫の推測。「紅の薄様」は恋文の体裁。6.2.13
注釈608大臣も夕霧。係助詞「も」は同類、薫に続いての意。6.2.13
注釈609この君は薫。6.2.13
注釈610驚かいたてまつりたまふ薫は匂宮に。6.2.13
注釈611殿つい居たまひて夕霧は匂宮に敬意を表して膝まずく。6.2.14
注釈612まかではべりぬべし以下「遣はさむ」まで、夕霧の詞。6.2.15
注釈613山の座主比叡山の天台座主。6.2.15
6.3
第三段 薫、随身から匂宮と浮舟の関係を知らされる


6-3  Kaoru is told Niou-no-miya and Ukifune's relationship by his follower

6.3.1  夜更けて、皆出でたまひぬ。大臣は、宮を先に立てたてまつりたまひて、あまたの御子どもの上達部、君たちをひき続けて、 あなたに渡りたまひぬこの殿は遅れて出でたまふ。
 夜が更けて、みな退出なさった。大臣は、宮を先にお立て申し上げになって、大勢のご子息の上達部や、若君たちを引き連れて、あちらにお渡りになった。この殿は遅れてお出になる。
 夜のふけたころだれも皆六条院から退出した。左大臣は宮をお先立てして幾人もの子息の高官、殿上人を率いていて東の御殿へ行った。右大将はそれに少し遅れて自邸へ帰るのであった。
  Yo huke te, mina ide tamahi nu. Otodo ha, Miya wo saki ni tate tatematuri tamahi te, amata no ohom-kodomo no Kamdatime, kimi-tati wo hiki-tuduke te, anata ni watari tamahi nu. Kono Tono ha okure te ide tamahu.
6.3.2  随身けしきばみつる、あやしと思しければ、 御前など下りて火灯すほどに、随身召し寄す。
 随身がいわくありげな顔をしていたのを、何かあるとお思いになったので、御前駆たちが引き下がって松明を燈すころに、随身を呼び寄せる。
 随身が告げることのありそうなふうであったのを怪しく思っていたから、前駆の人たちなどが馬からおりて炬火たいまつに火をつけさせたりしている時に、薫は随身を近くへ呼んだ。
  Zuizin kesiki-bami turu, ayasi to obosi kere ba, go-zen nado ori te hi tomosu hodo ni, Zuizin mesi-yosu.
6.3.3  「 申しつるは、何ごとぞ
 「先程申したことは、何事か」
 「さっきの話はどんなことか」
  "Mausi turu ha, nani-goto zo?"
6.3.4  と問ひたまふ。
 とお尋ねになる。

  to tohi tamahu.
6.3.5  「 今朝、かの宇治に出雲権守時方朝臣のもとにはべる男の、紫の薄様にて、桜につけたる文を、西の妻戸に寄りて、女房に取らせはべりつる。見たまへつけて、しかしか問ひはべりつれば、言違へつつ、虚言のやうに申しはべりつるを、いかに申すぞ、とて、童べして見せはべりつれば、兵部卿宮に参りはべりて、式部少輔道定朝臣になむ、その返り事は取らせはべりける」
 「今朝、あの宇治に、出雲権守時方朝臣のもとに仕えている男が、紫の薄様で、桜に付けた手紙を、西の妻戸に近寄って、女房に渡しました。それを拝見しまして、これこれしかじかと尋ねましたら、返事がころころと変わり、嘘のような返事を申しましたので、どうしてそう申すのかと、子どもを使って後をつけさせましたところ、兵部卿宮邸に参りまして、式部少輔道定朝臣に、その返事を渡しました」
 「今朝けさ宇治に出雲権守時方朝臣いずもごんのかみときかたあそんの所におります侍が来ておりまして、紫の薄様に書いて桜の枝につけられました手紙を西の妻戸から女房に渡しているのを見ましてございます。見つけまして何かと聞きただしますと、申すことが作りごとらしいものでございますから、信用はできないと存じまして、小侍をそっとつけてやりますと、兵部卿の宮のお邸へまいり、式部少輔しょうにその返事を渡したそうでございます」
  "Kesa, kano Udi ni, Idumo-no-Gon-no-Kami Tokikata-no-Asom no moto ni haberu wotoko no, murasaki no usuyau ni te, sakura ni tuke taru humi wo, nisi no tumado ni yori te, nyoubau ni tora se haberi turu. Mi tamahe tuke te, sika-sika tohi haberi ture ba, koto-tagahe tutu, sora-goto no yau ni mausi haberi turu wo, ikani mausu zo, tote, warahabe site mise haberi ture ba, Hyaubukyau-no-Miya ni mawiri haberi te, Sikibu-no-Seu Mitisada-no-Asom ni nam, sono kaheri-goto ha tora se haberi keru."
6.3.6  と申す。君、あやしと思して、
 と申す。君は、変だとお思いになって、
 と言う。薫は不思議なことであると思い、
  to mausu. Kimi, ayasi to obosi te,
6.3.7  「 その返り事は、いかやうにしてか、出だしつる
 「その返事は、どのようにして、返したか」
 「その返事をあちらではどんなふうにして出したか」
  "Sono kaheri-goto ha, ika yau ni si te ka, idasi turu?"
6.3.8  「 それは見たまへず。異方より出だしはべりにける。下人の申しはべりつるは、赤き色紙の、いときよらなる、となむ申しはべりつる」
 「それは拝見できませんでした。別の方から出しました。下人の申したことでは、赤い色紙で、とても美しいもの、と申しました」
 「それは見なかったのでございます。別の戸口から出して渡したらしいのでございます。下人から聞きますと赤い色紙のきれいなものだったと申すことです」
  "Sore ha mi tamahe zu. Koto-kata yori idasi haberi ni keru. Simo-bito no mausi haberi turu ha, akaki sikisi no, ito kiyora naru, to nam mausi haberi turu."
6.3.9  と聞こゆ。 思し合はするに、違ふことなし。さまで見せつらむを、かどかどしと思せど、人びと近ければ、詳しくものたまはず。
 と申し上げる。お考え合わせになると、ぴったりである。そこまで見届けさせたのを、気が利いているとお思いになるが、人びとが近くにいるので、詳しくはおっしゃらない。
 この言葉から思い合わせると、宮の見ておいでになった文がそれに相違ないと薫は思った。そんなにまで苦心をして調べ出して来たのは気のきいた男であると思ったが、人がすでに集まって来ていたからそれ以上の細かいことは言わせずに済ませた。
  to kikoyu. Obosi ahasuru ni, tagahu koto nasi. Sa made mise tu ram wo, kado-kadosi to obose do, hito-bito tikakere ba, kuhasiku mo notamaha zu.
注釈614あなたに渡りたまひぬ同じ六条院の東北の町に。6.3.1
注釈615この殿は薫。6.3.1
注釈616御前など下りて火灯すほどに前駆の者が御前を引き下がって松明の用意をする。6.3.2
注釈617申しつるは何ごとぞ薫の詞。6.3.3
注釈618今朝かの宇治に以下「取らせはべりける」まで、随身の詞。6.3.5
注釈619出雲権守時方朝臣のもとにはべる男の出雲権守時方朝臣に仕える下男。時方は左衛門大夫兼出雲権守であることが初めて記される。6.3.5
注釈620その返り事はいかやうにしてか出だしつる薫の詞。6.3.7
注釈621それは見たまへず以下「申しはべりつる」まで、随身の詞。6.3.8
注釈622思し合はするに先程見た匂宮が手にしていた「紅の薄様」とこの「赤き色紙」を比較。6.3.9
6.4
第四段 薫、帰邸の道中、思い乱れる


6-4  Kaoru is perplexed with their relationship on the way to his home

6.4.1  道すがら、「 なほ、いと恐ろしく、隈なくおはする宮なりや。いかなりけむついでに、さる人ありと聞きたまひけむ。いかで言ひ寄りたまひけむ。 田舎びたるあたりにて、かうやうの筋の紛れは、えしもあらじ、と思ひけるこそ幼けれ。さても、 知らぬあたりにこそ、さる好きごとをものたまはめ、昔より隔てなくて、あやしきまでしるべして、率てありきたてまつりし身にしも、 うしろめたく思し寄るべしや
 帰途、「やはり、実に油断のならない、抜け目なくいらっしゃる宮であるよ。どのような機会に、そのような人がいるとお聞きになったのだろう。どのようにして言い寄りなさったのだろう。田舎めいた所だから、このような方面の過ちは、けっして起こるまい、と思っていたのが浅はかだった。それにしても、わたしに関わりのない女には、そのような懸想をなさってもよいが、昔から親しくして、おかしいまでに手引して、お連れ申して歩いた者に、裏切ってそのような考えを持たれてよいものであろうか」
 薫は車で来る途々みちみちの話を思い、恐ろしいほど異性に対しては神経の過敏に働く宮である、どんな機会にあの人のことをお知りになったのであろう、そしてどうして誘惑をお始めになったのであろう、あの田舎いなかの宇治に住ませてあれば、そうした危険には隔離されているもののように思い、安心していたのはなんたる自分の幼稚な考え方であったろう、それにしても互いに知らぬ人の愛人と恋愛の遊戯をすることも世間にはあるであろうが、自分と宮とは親友の間柄で、人が怪しむほどにも助けられ、お助けして恋の媒介をすら勤めた自分の愛人を誘惑などあそばされてよいわけはない
  Miti-sugara, "Naho, ito osorosiku, kumanaku ohasuru Miya nari ya! Ika nari kem tuide ni, saru hito ari to kiki tamahi kem. Ikade ihi-yori tamahi kem. Winakabi taru atari nite, kau yau no sudi no magire ha, e simo ara zi, to omohi keru koso wosanakere. Sate mo, sira nu atari ni koso, saru suki-goto wo mo notamaha me, mukasi yori hedate naku te, ayasiki made sirube si te, wi te ariki tatematuri si mi ni simo, usirometaku obosi-yoru besi ya!"
6.4.2  と思ふに、いと心づきなし。
 と思うと、まことに気にくわない。
 と思うと不快でならなかった。
  to omohu ni, ito kokoro-dukinasi.
6.4.3  「 対の御方の御ことを、いみじく思ひつつ、年ごろ過ぐすは、わが心の重さ、こよなかりけり。さるは、それは、 今初めてさま悪しかるべきほどにもあらずもとよりのたよりにもよれるを、ただ心のうちの隈あらむが、わがためも苦しかるべきによりこそ、思ひ憚るもをこなるわざ なりけれ
 「対の御方のことを、たいそういとしく思いながらも、そのまま何年も過ごして来たのは、自分の慎重さが、深かったからだ。また一方では、それは今始まった不体裁な恋情ではない。もともとの経緯もあったのだが、ただ心の中に後ろ暗いところがあっては、自分としても苦しいことになると思ってこそ、遠慮していたのも愚かなことであった。
 西の対の夫人を非常に恋しく思いながら、ある線を越えて行かない自分はりっぱでないか、しかも親密にするのは宮家へはいってからの夫人としてではない、宮に対してやましい思いをお持ちするのがいやで、恋しい心を抑制しているのは愚かなことであったかも知れぬ、
  "Tai-no-Ohomkata no ohom-koto wo, imiziku omohi tutu, tosi-goro sugusu ha, waga kokoro no omosa, koyonakari keri. Saruha, sore ha, ima hazime te sama asikaru beki hodo ni mo ara zu. Moto yori no tayori ni mo yore ru wo, tada kokoro no uti no kuma ara m ga, waga tame mo kurusikaru beki ni yori koso, omohi-habakaru mo woko naru waza nari kere.
6.4.4   このころかく悩ましくしたまひて、例よりも人しげき紛れに、いかではるばると書きやりたまふらむ。おはしやそめにけむ。いと遥かなる懸想の道なりや。あやしくて、 おはし所尋ねられたまふ日もあり、と 聞こえきかし。さやうのことに思し乱れて、そこはかとなく悩みたまふなるべし。 昔を思し出づるにも、えおはせざりしほどの嘆き、いといとほしげなりきかし」
 最近このように具合悪くなさって、不断よりも人の多い取り込み中に、どのようにしてはるばる遠い宇治までお書きやりになったのだろうか。通い初めなさったのだろうか。たいそう遠い恋の通い路だな。不思議に思って、いらっしゃる所を尋ねられる日もあった、と聞いたことだ。そのようなことにお苦しみになって、どこそことなく悩んでいらっしゃるのだろう。昔を思い出すにつけても、お越しになれなかったときの嘆きは、実にお気の毒であった」
 ずっとこのごろ宮は御病気のようで始終お見舞いの人々に取り巻かれておいでになりながら、どうして宇治へのお手紙は書かれたのであろう、またどうしてお通いになることができたのであろう、遠くはるかな恋の道ではないか、だれにも想像のつかぬ所へ行ってお泊まりになることがあり、所在を捜されておいでになる時があるという御評判も聞いた、罪な恋におぼれて御煩悶はんもんから名のない病気におかかりになっているのであろう、昔のことを思い出しても、あの山荘へお通いになることの可能でない間は見てもいられぬほどお気の毒に思いやつれておいでになったものである
  Kono-koro kaku nayamasiku si tamahi te, rei yori mo hito sigeki magire ni, ikade haru-baru to kaki-yari tamahu ram. Ohasi ya some ni kem. Ito haruka naru kesau no miti nari ya! Ayasiku te, ohasi-dokoro tadune rare tamahu hi mo ari, to kikoye ki kasi. Sayau no koto ni obosi midare te, sokohaka-to-naku nayami tamahu naru besi. Mukasi wo obosi iduru ni mo, e ohase zari si hodo no nageki, ito itohosige nari ki kasi."
6.4.5  と、つくづくと思ふに、 女のいたくもの思ひたるさまなりしも、片端心得そめたまひては、よろづ思し合はするに、いと憂し。
 と、つくづくと思うと、女がひどく物思いしている様子であったのも、事情の一端がお分かり始めになると、あれこれと思い合わせると、実につらい。
 と薫は思い、またいろいろと思い合わせてみると、女が非常に物思いをしていたこともこの理由があってのことであったと、一つが明らかになると次々にうなずかれていくことも多くて女がうとましく思われた。
  to, tuku-duku to omohu ni, Womna no itaku mono-omohi taru sama nari si mo, kata-hasi kokoro-e some tamahi te ha, yorodu obosi ahasuru ni, ito usi.
6.4.6  「 ありがたきものは、人の心にもあるかな。らうたげにおほどかなりとは見えながら、色めきたる方は添ひたる人ぞかし。この宮の御具にては、 いとよきあはひなり
 「難しいものは、人の心だな。かわいらしくおっとりしているとは見えながら、浮気なところがある人であった。この宮の相手としては、まことによい似合いだ」
 完全な人というものは少ないものである、可憐かれんでおおように見えながら媚態びたいの備わったのが彼女である、宮のお相手には全く似合わしいものであるから、
  "Arigataki mono ha, hito no kokoro ni mo aru kana! Rautage ni ohodoka nari to ha miye nagara, iro-meki taru kata ha sohi taru hito zo kasi. Kono Miya no ohom-gu nite ha, ito yoki ahahi nari."
6.4.7  と思ひも譲りつべく、退く心地したまへど、
 と譲ってもよい気持ちになり、身を引きたくお思いになるが、
 すべて今からお譲りしてしまいたい気も薫はしたが、
  to omohi mo yuduri tu beku, noku kokoti si tamahe do,
6.4.8  「 やむごとなく思ひそめ始めし人ならばこそあらめ、 なほさるものにて置きたらむ。今はとて見ざらむ、はた、恋しかるべし」
 「北の方にする気持ちの女ならともかくも、やはり今まで通りにしておこう。これを限りに会わなくなるのも、はたまた、恋しい気がするであろう」
 正妻として結婚した女にそうした過失をされたというのでなく、今後も愛人としての彼女を失ってしまっては恋しくなるであろうと、
  "Yamgotonaku omohi some hazime si hito nara ba koso ara me, naho saru mono nite oki tara m. Ima ha tote mi zara m, hata, kohisikaru besi."
6.4.9  と人悪ろく、いろいろ心の内に思す。
 と体裁悪いほど、いろいろと心中ご思案なさる。
 未練らしく思われないこともなかった。
  to hito-waroku, iro-iro kokoro no uti ni obosu.
注釈623なほいと恐ろしく以下「思し寄るべしや」まで薫の心中の思い。6.4.1
注釈624田舎びたるあたりにて宇治は都から遠い田舎なので。6.4.1
注釈625知らぬあたりにこそ自分に関わりのない女。係助詞「こそ」は「のたまはめ」に係る、逆接用法。6.4.1
注釈626うしろめたく思し寄るべしや『集成』は「人を裏切ってそんな考えを持たれてよいものか」。『完訳』は「やましい了簡を起されてよいものか」と訳す。6.4.1
注釈627対の御方の以下「いといとほしげなりきかし」まで、薫の心中の思い。6.4.3
注釈628今初めてさま悪しかるべきほどにもあらず『完訳』は「今始った不体裁な恋でなく」と訳す。6.4.3
注釈629もとよりのたよりにもよれるを故大君が中君を結婚相手に譲り、また中君と一夜を共にしたこともある、という意。6.4.3
注釈630このころかく悩ましくしたまひて匂宮の病気。恋わずらい。6.4.4
注釈631おはし所尋ねられたまふ日もあり匂宮の所在。「られ」は受身助動詞。「たまふ」は匂宮に対する敬意。6.4.4
注釈632聞こえきかし『集成』は「耳にしたこともあったな」。『完訳』は「噂にも聞いたことがある」と注す。6.4.4
注釈633昔を思し出づるに主語は薫。『集成』は「ここからは地の文」。『完訳』は「薫の心内語に、語り手による尊敬語がまじる」と注す。6.4.4
注釈634女のいたくもの思ひたるさま浮舟。6.4.5
注釈635ありがたきものは以下「いとよきあはひなり」まで、薫の心中の思い。6.4.6
注釈636いとよきあはひなり『完訳』は「似合いの二人と、皮肉る」と注す。6.4.6
注釈637やむごとなく以下「恋しかるべし」まで、薫の心中の思い。正妻にする女であったら、の意。6.4.8
注釈638なほさるものにて置きたらむ『集成』は「匂宮の女でもよい、と思う」。『完訳』は「やはり今までどおり、慰み相手として。彼女への執着を合理化」と注す。6.4.8
校訂25 なりけれ なりけれ--なるけり(り/$れ) 6.4.3
6.5
第五段 薫、宇治へ随身を遣わす


6-5  Kaoru sends his follow to Uji

6.5.1  「 我、すさまじく思ひなりて、捨て置きたらば、かならず、かの宮、呼び取りたまひてむ。人のため、後のいとほしさをも、ことに たどりたまふまじ。さやうに思す 人こそ、一品宮の御方に人、二、三人参らせたまひたなれ。さて、出で立ちたらむを見聞かむ、いとほしく」
 「自分が、嫌気がさしたといって、見捨てたら、きっと、あの宮が、呼び迎えなさろう。相手にとって、将来がお気の毒なのも、格別お考えなさるまい。そのように寵愛なさる女は、一品宮の御方のもとに女房を、二、三人出仕させなさったという。そのように、出仕させたのを見たり聞いたりするのも、気の毒なことだ」
 自分が捨ててしまえば必ず宮はどこかへ呼び寄せてお置きになるであろう、女がどんな不名誉なことになろうとも思いやりはおできになるまい、今までからそんな人を二、三人も女一にょいちみやの女房に推挙されたことがある、そうした境遇になった時、自分は見るに忍びないつらさを味わうであろうと思い、
  "Ware, susamaziku omohi nari te, sute-oki tara ba, kanarazu, kano Miya, yobi-tori tamahi te m. Hito no tame, noti no itohosisa wo mo, koto ni tadori tamahu mazi. Sayau ni obosu hito koso, Ippon-no-Miya no ohom-kata ni hito, ni, sam-nin mawira se tamahi ta' nare. Sate, ide-tati tara m wo mi kika m, itohosiku."
6.5.2  など、なほ捨てがたく、けしき見まほしくて、御文遣はす。例の随身召して、御手づから人間に召し寄せたり。
 などと、やはり見捨てがたく、様子を見たくて、お手紙を遣わす。いつもの随身を呼んで、ご自身で直接人のいない間に呼び寄せた。
 捨てる気は起こらないで、どうするつもりかも見たく思い、家へ帰った。薫は手紙を宇治へ書いた。大将は例の随身を使いに選び、自身で人のない時にそば近くへ呼んだ。
  nado, naho sute gataku, kesiki mi mahosiku te, ohom-humi tukahasu. Rei no zuizin mesi te, ohom-tedukara hitoma ni mesi-yose tari.
6.5.3  「 道定朝臣は、なほ仲信が家にや通ふ」
 「道定朝臣は、今でも仲信の家に通っているのか」
 「時方朝臣は今でも仲信なかのぶの家に通っているか」
  "Mitisada-no-Asom ha, naho Nakanobu ga ihe ni ya kayohu?"
6.5.4  「 さなむはべる」と申す。
 「そのようでございます」と申す。
 「そうでございます」
  "Sa nam haberu." to mausu.
6.5.5  「 宇治へは、常にやこのありけむ男は遣るらむ。 かすかにて居たる人なれば道定も思ひかくらむかし
 「宇治へは、いつもあの先程の男を使いにやるのか。ひっそり暮らしている女なので、道定も思いをかけるだろうな」
 「宇治へいつもその使いをやるのだね。零落をしていた女だから時方も恋をしていたことがあるかもしれないね」
  "Udi he ha, tune ni ya kono ari kem wonoko ha yaru ram? Kasuka ni te wi taru hito nare ba, Mitisada mo omohi kaku ram kasi."
6.5.6  と、うちうめきたまひて、
 と、溜息をおつきになって、
 と歎息をして見せ、
  to, uti-umeki tamahi te,
6.5.7  「 人に見えでをまかれ。をこなり
 「人に見られないように行け。馬鹿らしいからな」
 「人に見られないようにして行け、見られれば恥ずかしいよ」
  "Hito ni miye de wo makare. Woko nari."
6.5.8  とのたまふ。かしこまりて、少輔が常にこの殿の御こと案内し、かしこのこと問ひしも思ひあはすれど、もの馴れてえ申し出でず。君も、「下衆に詳しくは知らせじ」と思せば、問はせたまはず。
 とおっしゃる。緊張して、少輔がいつもこの殿の事を探り、あちらの事を尋ねたことも思い合わされるが、なれなれしくは申し出ることもできない。君も、「下衆に詳しくは知らせまい」とお思いになったので、尋ねさせなさらない。
 と言った。時方が始終大将のことをいろいろときたがり、山荘の中のことを聞いていたのは、自身のためでなく他の方のためにしていたことであったに違いないし、大将もまたそれを隠そうとしているのであると、物なれた思いやりをして何とも問わず、薫も低い人間にくわしいことは知らせたくないと思っているのであった。
  to notamahu. Kasikomari te, Seuhu ga tune ni kono Tono no ohom-koto anai-si, kasiko no koto tohi si mo omohi-ahasure do, mono-nare te e mausi-ide zu. Kimi mo, "Gesu ni kuhasiku ha sira se zi." to obose ba, toha se tamaha zu.
6.5.9  かしこには、御使の例よりしげきにつけても、もの思ふことさまざまなり。 ただかくぞのたまへる
 あちらでは、お使いがいつもより頻繁にあるのにつけても、あれこれ物思いをする。ただこのようにおっしゃっていた。
 山荘では大将家からの使いが平生よりもたびたび来ることでも不安が覚えられる浮舟の君であった。手紙はただ、
  Kasiko ni ha, ohom-tukahi no rei yori sigeki ni tuke te mo, mono-omohu koto sama-zama nari. Tada kaku zo notamahe ru.
6.5.10  「 波越ゆるころとも知らず末の松
 「心変わりするころとは知らずにいつまでも
  なみこゆるころとも知らず
    "Nami koyuru koro to mo sira zu suwe no matu
6.5.11   待つらむとのみ思ひけるかな
  待ち続けていらっしゃるものと思っていました
  末の松まつらんとのみ思ひけるかな
    matu ram to nomi omohi keru kana
6.5.12   人に笑はせたまふな
 世間の物笑いになさらないでください」
 人にこの歌をお話しになって笑ってはいけませんよ。
  Hito ni waraha se tamahu na."
6.5.13  とあるを、いとあやしと思ふに、胸ふたがりぬ。御返り事を心得顔に聞こえむもいとつつまし、ひがことにてあらむもあやしければ、御文はもとのやうにして、
 とあるのを、とても変だと思うと、胸が真っ暗になった。お返事を理解したように申し上げるのも気がひける、何かの間違いだっら具合が悪いので、お手紙はもとのように直して、
 と書かれてあるだけであったが、いぶかしいと思った瞬間から姫君の胸はふさがってしまった。相手の言おうとしていることを知っているような返事を書くことも恥ずかしく、誤聞であろうと言いわけをするのもやましく思われて、手紙をもとのように巻き、
  to aru wo, ito ayasi to omohu ni, mune hutagari nu. Ohom-kaheri-goto wo kokoroe-gaho ni kikoye m mo ito tutumasi, higa-koto ni te ara m mo ayasikere ba, ohom-humi ha moto no yau ni si te,
6.5.14  「 所違へのやうに見えはべればなむ。あやしく悩ましくて、何事も」
 「宛先が違うように見えますので。妙に気分がすぐれませんので、何事も申し上げられません」
 どこかほかへのお手紙かと存じます、身体からだを悪くしていまして、今日は何も申し上げられません。
  "Tokoro-tagahe no yau ni miye habere ba nam. Ayasiku nayamasiku te, nani-goto mo."
6.5.15  と書き添へてたてまつれつ。 見たまひて
 と書き添えて差し上げた。御覧になって、
 と書き添えて返した。
  to kaki-sohe te tatemature tu. Mi tamahi te,
6.5.16  「 さすがに、いたくもしたるかな。かけて見およばぬ心ばへよ」
 「そうはいっても、うまく言い逃れたな。少しも思ってもみなかった機転だな」
 かおるはそれを見て、さすがに才気の見えることをする、あの人にこんなことができるとは思わなかったと思い、
  "Sasuga ni, itaku mo si taru kana! Kakete mi oyoba nu kokorobahe yo."
6.5.17  とほほ笑まれたまふも、 憎しとは、え思し果てぬなめり
 とにっこりなさるのも、憎いとは、お恨み切れないのであろう。
 微笑をしているのは、どこまでも憎いというような気にはなっていないからであろう。
  to hohowema re tamahu mo, nikusi to ha, e obosi-hate nu na' meri.
注釈639我すさまじく以下「いとほしく」まで、薫の心中の思い。6.5.1
注釈640たどりたまふまじ主語は匂宮。『完訳』は「匂宮は、浮舟の将来など考えぬ刹那的で自己本意の人、の意」と注す。6.5.1
注釈641人こそ「参らせたまひたなれ」に係る逆接用法。6.5.1
注釈642道定朝臣は以下「家にや通ふ」まで、薫の詞。『集成』は「道定の朝臣(大内記)は、今でも仲信の家に通っているのか。仲信の女との夫婦仲について問う。匂宮と女を張り合っているとは、あくまで隠したく、道定自身が浮舟に懸想していると思わせるための用意」と注す。6.5.3
注釈643さなむはべる随身の詞。6.5.4
注釈644宇治へは以下「思ひかくらむかし」まで、薫の詞。6.5.5
注釈645かすかにて居たる人なれば浮舟をさす。6.5.5
注釈646道定も思ひかくらむかし『集成』は「仲信の女をさし措いて、浮舟に思いを寄せたか、と推察する体の発言」と注す。6.5.5
注釈647人に見えでをまかれをこなり薫の詞。6.5.7
注釈648ただかくぞのたまへる薫の手紙。6.5.9
注釈649波越ゆるころとも知らず末の松待つらむとのみ思ひけるかな薫から浮舟への贈歌。明融臨模本「すゑの松」に朱合点。『花鳥余情』は「君をおきてあだし心をわがもたば末の松山波も越えなむ」(古今集東歌、一〇九三)。『異本紫明抄』は「越えにける波をば知らで末の松千代までとのみ頼みけるかな」(後拾遺集恋二、七〇五、藤原能通)を指摘。『完訳』は「他者の心を移したと詰問」と注す。6.5.10
注釈650人に笑はせたまふな歌に続けた文。6.5.12
注釈651所違へのやうに以下「何事も」まで、浮舟の返事。薫からの手紙に書き添える。6.5.14
注釈652見たまひて主語は薫。6.5.15
注釈653さすがに以下「心ばへよ」まで、薫の感想。6.5.16
注釈654憎しとはえ思し果てぬなめり『休聞抄』は「双也」と指摘。6.5.17
出典27 波越ゆる 君をおきてあだし心をわが持たば末の松山浪も越えなむ 古今集東歌-一〇九三 陸奥歌 6.5.10
6.6
第六段 右近と侍従、右近の姉の悲話を語る


6-6  Ukon talks her sister's unhappy tale to Jiju

6.6.1  まほならねど、ほのめかしたまへるけしきを、 かしこにはいとど思ひ添ふ。「 つひにわが身は、けしからずあやしくなりぬべきなめり」と、いとど思ふところに、右近来て、
 正面きってではないが、それとなくおっしゃった様子を、あちらではますます物思いが加わる。「結局は、わが身は良くない妙な結果になってしまいそうだ」と、ますます思っているところに、右近が来て、
 正面からではないが薫がほのめかして来たことで浮舟うきふねの煩悶はまたふえた。とうとう自分は恥さらしな女になってしまうのであろうといっそう悲しがっているところへ右近が来て、
  Maho nara ne do, honomekasi tamahe ru kesiki wo, kasiko ni ha itodo omohi sohu. "Tuhini waga mi ha, kesikara zu ayasiku nari nu beki na' meri." to, itodo omohu tokoro ni, Ukon ki te,
6.6.2  「 殿の御文は、などて返したてまつらせたまひつるぞ。 ゆゆしく、忌みはべるなるものを
 「殿のお手紙は、どうしてお返しなさったのですか。不吉にも、忌むものでございますものを」
 「殿様のお手紙をなぜお返しになったのでございますか。縁起の悪いことでございますのに」と言った。
  "Tono no ohom-humi ha, nado te kahesi tatematura se tamahi turu zo. Yuyusiku, imi haberu naru mono wo."
6.6.3  「 ひがことのあるやうに見えつれば、所違へかとて
 「間違いがあるように見えたので、宛先が違うのかと思いまして」
 「私に理由わけのわからないことが書かれていたから、持って行く先をまちがえたのでしょうって書いて」
  "Higa-koto no aru yau ni miye ture ba, tokoro-tagahe ka tote."
6.6.4  とのたまふ。 あやしと見ければ、道にて開けて見けるなりけり。 よからずの右近がさまやな。見つとは言はで、
 とおっしゃる。変だと思ったので、道で開けて見たのであった。良くない右近の態度ですこと。見たとは言わないで、
 浮舟から聞くまでもなく、不思議に思ってすでに手紙は使いへ渡す前に右近が読んであったのである。意地悪な右近ではないか。見たとは姫君へ言わずに、
  to notamahu. Ayasi to mi kere ba, miti nite ake te mi keru nari keri. Yokara zu no Ukon ga sama ya na! Mi tu to ha iha de,
6.6.5  「 あな、いとほし。苦しき御ことどもにこそはべれ。殿はもののけしき御覧じたるべし」
 「まあ、お気の毒な。難儀なお事でございます。殿は事情をお察しになったのでしょう」
 「あなた様はほんとうにお気の毒でございます。お苦しいのはお三人ともですけれどね。殿様は秘密をお悟りになったらしゅうございますね」
  "Ana, itohosi! Kurusiki ohom-koto-domo ni koso habere. Tono ha mono no kesiki go-ran-zi taru besi."
6.6.6  と言ふに、面さと赤みて、ものものたまはず。文見つらむと思はねば、「異ざまにて、かの御けしき見る人の語りたるにこそは」と思ふに、
 と言うと、顔がさっと赤くなって、何もおっしゃらない。手紙を見たとは思わないので、「別のことで、あの方のご様子を見た人が話したこと」と思うが、
 と言われて、浮舟の顔はさっと赤くなり、ものを言うこともしなかった。手紙を見たとは思わずに、来た使いなどから薫の様子が伝えられたのであろうと思っても、
  to ihu ni, omote sato akami te, mono mo notamaha zu. Humi mi tu ram to omoha ne ba, "Koto-zama nite, kano mi-kesiki miru hito no katari taru ni koso ha." to omohu ni,
6.6.7  「誰れか、さ言ふぞ」
 「誰が、そのように言ったのか」
 だれがそう言っているか
  "Tare ka, sa ihu zo?"
6.6.8  などもえ問ひたまはず。この人びとの見思ふらむことも、いみじく恥づかし。わが心もてありそめしことならねども、「 心憂き宿世かな」と思ひ入りて寝たるに、侍従と二人して、
 などとも尋ねることはできない。この女房たちが見たり思ったりすることも、ひどく恥ずかしい。自分の考えから始まったことではないが、「嫌な運命だなあ」と思い入って寝ていると、侍従と二人で、
 とも問えなかった。右近と侍従がどう想像しているであろう、恥ずかしいことである、自発的にき起こした恋愛問題ではないが、情けない運命であると、横たわったまま思い沈んでいると、侍従と二人で右近は忠告を試みようとした。
  nado mo e tohi tamaha zu. Kono hito-bito no mi omohu ram koto mo, imiziku hadukasi. Waga kokoro mote ari some si koto nara ne do mo, "Kokoro-uki sukuse kana!" to omohi-iri te ne taru ni, Zizyuu to hutari si te,
6.6.9  「 右近が姉の常陸にて、人二人見はべりしを、ほどほどにつけては、ただかくぞかし。 これもかれも劣らぬ心ざしにて、 思ひ惑ひてはべりしほどに、女は、今の方にいますこし心寄せまさりてぞはべりける。それに妬みて、つひに今のをば殺してしぞかし。
 「右近めの姉で、常陸国で、男二人と結婚しましたが、身分は違っても、このようなものでございます。それぞれ負けない愛情なので、思い迷っておりました時に、女は、新しい男の方に少し気持ちが動いたのでございました。それを嫉妬して、結局新しい男を殺してしまったのです。
 「私の姉は常陸ひたちで二人の情人を持ったのでございます。どの階級にもそうした関係はあるものでございましてね、どちらからも深く思われていたのでございますから、どうすればよいかと迷っていながらも、姉はあとのほうの男を少しよけいに愛していたのですね、それを嫉妬しっとしまして、前の男があとの男を殺してしまったのでございます。
  "Ukon ga ane no, Hitati nite, hito hutari mi haberi si wo, hodo-hodo ni tuke te ha, tada kaku zo kasi. Kore mo kare mo otora nu kokorozasi nite, omohi-madohi te haberi si hodo ni, womna ha, ima no kata ni ima sukosi kokoro-yose masari te zo haberi keru. Sore ni netami te, tuhini ima no wo ba korosi te si zo kasi.
6.6.10  さて我も住みはべらずなりにき。国にも、いみじきあたら兵一人失ひつ。また、この過ちたるも、よき郎等なれど、かかる過ちしたる者を、いかでかは使はむ、とて、国の内をも追ひ払はれ、すべて女のたいだいしきぞとて、館の内にも置いたまへらざりしかば、東の人になりて、 乳母も、今に恋ひ泣きはべるは、 罪深くこそ見たまふれ
 そうして自分も住んでいられなくなったのでした。常陸国でも、大変惜しい兵士を一人失った。また、過ちを犯した男も、良い家来であったが、このような過ちを犯した者を、どうしてそのまま使うことができようか、ということで、国内を追放され、すべて女がよろしくないのだと言って、館の内にも置いてくださらなかったので、東国の人となって、乳母も、今でも恋い慕って泣いておりますのは、罪深いものと拝見されます。
 そして自身も姉を捨ててしまいました。おやかたでもよい侍を一人なくしておしまいになったのでございます。殺したほうもよい郎党だったのですがそんな過失をしてしまった男は使わないとお国からわれてしまいました。皆女がよろしくない二心を持ったから起こったことだとお言いになりましてお館の中にも置いていただけなくなりましたので、東国人になってしまいまして、ままは今でも恋しがって泣いております。罪の深いことだとこんなことも思われるのでございますよ。
  Sate ware mo sumi habera zu nari ni ki. Kuni ni mo, imiziki atara tuhamono hitori usinahi tu. Mata, kono ayamati taru mo, yoki raudou nare do, kakaru ayamati si taru mono wo, ikade kaha tukaha m, tote, kuni no uti wo mo ohi-haraha re, subete womna no tai-daisiki zo tote, tati no uti ni mo oi tamahe ra zari sika ba, Aduma no hito ni nari te, Mama mo, ima ni kohi naki haberu ha, tumi hukaku koso mi tamahure.
6.6.11  ゆゆしきついでのやうにはべれど、上も下も、かかる筋のことは、思し乱るるは、いと悪しきわざなり。御命まだにはあらずとも、人の御ほどほどにつけてはべることなり。死ぬるにまさる恥なることも、よき人の御身には、なかなかはべるなり。一方に思し定めてよ。
 縁起でもない話のついでのようでございますが、身分の上の方も下の者も、このようなことで、お悩みになるのは、とても悪いことです。お命までには関わらなくても、それぞれの方のご身分に関わることでございます。死ぬことにまさる恥ということも、身分の高い方には、かえってございますことです。お一方にお決めなさい。
 悪い話のついでに申すようでございますが、貴族の方でも低い身分の者でも二つに愛を分けて煩悶はんもんをするということは悪いことでございますよ。貴族は命のやり取りなどはなさいませんでも、死ぬにもまさった名誉の損というものがあるのですからね。かえってつろうございます。ともかくもどちらかお一人にきめておしまいなさいましよ、
  Yuyusiki tuide no yau ni habere do, kami mo simo mo, kakaru sudi no koto ha, obosi midaruru ha, ito asiki waza nari. Ohom-inoti mada ni ha ara zu tomo, hito no ohom-hodo-hodo ni tuke te haberu koto nari. Sinuru ni masaru hadi naru koto mo, yoki hito no ohom-mi ni ha, naka-naka haberu nari. Hito-kata ni obosi sadame te yo.
6.6.12  宮も御心ざしまさりて、まめやかにだに聞こえさせたまはば、そなたざまにもなびかせたまひて、ものないたく嘆かせたまひそ。痩せ衰へさせたまふもいと益なし。さばかり上の思ひいたづききこえさせたまふものを、 乳母がこの御いそぎに心を入れて、惑ひゐてはべるにつけても、 それよりこなたに、と聞こえさせたまふ御ことこそ、いと苦しく、いとほしけれ」
 宮もご愛情がまさって、せめて真面目にさえご求婚なさるならば、そちらに従いなさって、ひどくお嘆きなさるな。痩せ衰えなさるのもまことにつまらない。あれほど母上が大切に思ってお世話なさっているのを、乳母がこの上京のご準備に熱心になって、大騒ぎしておりますにつけても、あちらよりもこちらに、とおっしゃってくださる宮のことが、とてもつらく、お気の毒です」
 宮様も殿様以上に誠意を持っておいでになるのでしたら、それでもよろしいではありませんか。さっぱりとお気持ちを清算しておしまいになりまして、あまり煩悶はせぬようになさいませ。せて病気にまでなっておいでになってはつまらないではございませんか。奥様があれほどにもあなた様のことを御心配していらっしゃるではありませんか。私の母のままが殿様のほうへおいでになることと思い込みまして夢中になって御用意を申しておりますのを見ますと、それはやめて別の所へ行くとお言いになりますのもつらいことだろうと思います。
  Miya mo mi-kokorozasi masari te, mameyaka ni dani kikoye sase tamaha ba, sonata-zama ni mo nabikase tamahi te, mono na itaku nageka se tamahi so. Yase otorohe sase tamahu mo ito yaku nasi. Sabakari Uhe no omohi itaduki kikoye sase tamahu mono wo, Mama ga kono ohom-isogi ni kokoro wo ire te, madohi wi te haberu ni tuke te mo, sore yori konata ni, to kikoye sase tamahu ohom-koto koso, ito kurusiku, itohosikere."
6.6.13  と言ふに、 いま一人
 と言うと、もう一人は、
 またままがかわいそうにも思われます」と右近が言う横から、侍従が、
  to ihu ni, ima hitori,
6.6.14  「 うたて、恐ろしきまでな聞こえさせたまひそ。何ごとも御宿世にこそあらめ。ただ御心のうちに、すこし思しなびかむ方を、さるべきに思しならせたまへ。いでや、いとかたじけなく、いみじき御けしきなりしかば、 人のかく思しいそぐめりし方にも御心も寄らず。しばしは隠ろへても、御思ひのまさらせたまはむに寄らせたまひね、とぞ思ひえはべる」
 「まあ嫌な、恐ろしいことまでを申し上げなさいますな。何事もすべてご運命でしょう。ただお心の中で、少しでも気持ちの傾く方を、そうなるご運だとお考えなさいませ。それにしても、まことに恐れ多く、たいそうなご執心であったので、殿があのように何かとご準備なさっているらしいことにもお心が動きません。しばらくは隠れてでも、お気持ちがお傾きになる方に身をお寄せなさいませ、と存じます」
 「まあそんなこわい気もするほどのことを申し上げないでお置きなさいよ。こうなりましたのも皆宿命というものですよ。ただお心の中で少しでも多く愛のお感じられになる方の所へお行きになることになさいませ。ほんとうにあの御身分の方があんなにまで思い込んだふうでいらっしゃったのですもの、お引っ越しの御用意だと言って皆が騒いでいます仕事を私はいっしょにする気もしないのですよ。しばらくは隠れたままのことにしてお置きになりましても、お心のおかれになる方に一生をお託しあそばすのがいいと私は思います」
  "Utate, osorosiki made na kikoye sase tamahi so. Nani-goto mo ohom-sukuse ni koso ara me. Tada mi-kokoro no uti ni, sukosi obosi nabika m kata wo, saru-beki ni obosi nara se tamahe. Ideya, ito katazikenaku, imiziki mi-kesiki nari sika ba, hito no kaku obosi isogu meri si kata ni mo mi-kokoro mo yora zu. Sibasi ha kakurohe te mo, ohom-omohi no masara se tamaha m ni yora se tamahi ne, to zo omohi e haberu."
6.6.15  と、宮をいみじくめできこゆる心なれば、ひたみちに言ふ。
 と、宮をたいそうお誉め申し上げる者なので、一途に言う。
 と宮の御美貌びぼうを愛する心から片寄った進言をする。
  to, Miya wo imiziku mede kikoyuru kokoro nare ba, hitamiti ni ihu.
注釈655かしこには浮舟をさす。6.6.1
注釈656つひにわが身は以下「なりぬべきなめり」まで、浮舟の心中の思い。6.6.1
注釈657殿の御文は以下「忌みはべるなるものを」まで、右近の詞。6.6.2
注釈658ゆゆしく忌みはべるなるものを『完訳』は「手紙を返すのは禁物とされる。相手を傷つけ、絶交を意味する」と注す。6.6.2
注釈659ひがことのあるやうに見えつれば所違へかとて浮舟の詞。6.6.3
注釈660あやしと見ければ--よからずの右近がさまやな『一葉抄』は「双紙か詞也」と指摘。6.6.4
注釈661あないとほし以下「御覧じたるべし」まで、右近の詞。6.6.5
注釈662心憂き宿世かな浮舟の心中の思い。6.6.8
注釈663右近が姉の以下「いとほしけれ」まで、右近の詞。6.6.9
注釈664これもかれも新しい男も前の男も。6.6.9
注釈665思ひ惑ひて主語は浮舟の姉。6.6.9
注釈666乳母も右近の母。浮舟の乳母。右近は浮舟と乳母子の関係。6.6.10
注釈667罪深くこそ見たまふれ往生の妨げとなること。「たまふれ」は謙譲補助動詞。6.6.10
注釈668乳母が浮舟の乳母。右近の母。6.6.12
注釈669それよりこなたに、と聞こえさせたまふ御こと薫に迎えられる前に匂宮の方に、の意。主語は匂宮。「きこえ」の対象は浮舟に。6.6.12
注釈670いま一人侍従。6.6.13
注釈671うたて恐ろしきまで以下「思ひえはべる」まで、侍従の詞。6.6.14
注釈672人のかく薫。6.6.14
校訂26 常陸にて 常陸にて--ひたちも(も/$にて) 6.6.9
6.7
第七段 浮舟、右近の姉の悲話から死を願う


6-7  Ukifune desires to kill herself as hearing Ukon talking her sister's unhappy tale

6.7.1  「 いさや。右近は、とてもかくても、事なく過ぐさせたまへと、初瀬、石山などに願をなむ立てはべる。この大将殿の御荘の人びとといふ者は、いみじき無道の者どもにて、一類この里に満ちてはべるなり。おほかた、この山城、大和に、殿の領じたまふ所々の人なむ、皆この内舎人といふ者のゆかりかけつつはべるなる。
 「さあね。右近は、どちらにしても、ご無事にお過ごしなさいと、長谷寺や、石山寺などに願を立てています。この大将殿のご荘園の人びとという者は、たいそうな不埒な者どもで、一族がこの里にいっぱいいると言います。だいたい、この山城国、大和国に、殿がお持ちになっている所々の人は、みなこの内舎人という者の縁につながっているそうでございます。
 「なにも私はぜひ大将様のほうにと言うのではありません、どちらでもよろしゅうございますから、事が起こらずにこの問題が解決されますようにと、初瀬はせ、石山の観音様にも願を立てているのです。大将様の御荘園の御用をしていますのは皆武力を持った荒い人たちで、仲間が無数に宇治にいるのですからね、この山城、大和やまとの殿様の領地というものは皆ここの内舎人うちとねりといわれている人に縁故を持った人が支配しています。
  "Isaya! Ukon ha, totemo-kakutemo, koto naku sugusa se tamahe to, Hatuse, Isiyama nado ni gwan wo nam tate haberu. Kono Daisyau-dono no mi-syau no hito-bito to ihu mono ha, imiziki mudau no mono-domo nite, hito-rui kono sato ni miti te haberu nari. Ohokata, kono Yamasiro, Yamato ni, Tono no ryau-zi tamahu tokoro-dokoro no hito nam, mina kono Udoneri to ihu mono no yukari kake tutu haberu naru.
6.7.2   それが婿の右近大夫といふ者を元として、 よろづのことをおきて仰せられたるななり。 よき人の御仲どちは、情けなきことし出でよ、と思さずとも、ものの心得ぬ田舎人どもの、宿直人にて替り替りさぶらへば、おのが番に当りて、いささかなることもあらせじなど、過ちもしはべりなむ。
 それの婿の右近大夫という者を首領として、すべての事を決めて命令するそうです。身分の高い方のお間柄では、思慮のないことを仕出かすよ、とお思いにならなくても、考えのない田舎者連中が、宿直人として交替で勤めていますので、自分の番に当たって、ちょっとしたことも起こさせまいとなどと、間違いも起こしましょう。
 内舎人の婿の右近の大夫たゆうというのが党主のようになっていろいろのことをきめるようですよ。貴族どうしは同情のないことを相手にさせようとは思っていらっしゃらないでしょうが、思いやりのないこの辺の田舎侍いなかざむらいがかわるがわる宿直とのいに来ていますから、自身の当番の時におちどのないようにと思いまして、どんな失礼なしぐさを宮様の御微行にしかけるかわかりません。
  Sore ga muko no Ukon-no-Taihu to ihu mono wo moto to si te, yorodu no koto wo oki te ohose rare taru na' nari. Yoki hito no ohom-naka-doti ha, nasakenaki koto si-ide yo, to obosa zu tomo, mono no kokoro-e nu winaka-bito-domo no, tonowi-bito nite kahari-gahari saburahe ba, onoga ban ni atari te, isasaka naru koto mo ara se zi nado, ayamati mo si haberi na m.
6.7.3   ありし夜の御ありきは、いとこそむくつけく思うたまへられしか。宮は、わりなくつつませたまふとて、御供の人も率ておはしまさず、やつれてのみおはしますを、さる者の見つけたてまつりたらむは、いといみじくなむ」
 先夜のご外出は、ほんとうに気味が悪く存じられました。宮は、どこまでも人目をお避けになろうとして、お供の人も連れていらっしゃらず、お忍び姿ばかりでいらっしゃるのを、そのような者がお見つけ申したときには、とても大変なことになりましょう」
 せんだっての時のことなどほんとうに今思ってもこわいようでございます。宮様のほうでは人目を思召してお付きもたくさんおつれにならないで、だれかわからぬようにしていらっしゃいますから、あの荒男どもがお見つけしましたらどんなことが起こりますかと心配ばかりいたしました」
  Ari-si yo no ohom-ariki ha, ito koso mukutukeku omou tamahe rare sika. Miya ha, warinaku tutuma se tamahu tote, ohom-tomo no hito mo wi te ohasimasa zu, yature te nomi ohasimasu wo, saru mono no mi-tuke tatematuri tara m ha, ito imiziku nam."
6.7.4  と、言ひ続くるを、 、「 なほ、我を、宮に心寄せたてまつりたると思ひて、この人びとの言ふ。いと恥づかしく、心地には いづれとも思はず。ただ夢のやうにあきれて、 いみじく焦られたまふをば、などかくしも、とばかり思へど、 頼みきこえて年ごろになりぬる人を、今はともて離れむと思はぬによりこそ、かくいみじとものも思ひ乱るれ。げに、よからぬことも出で来たらむ時」と、つくどくと思ひゐたり。
 と、言い続けるのを、女君、「やはり、わたしを、宮に心寄せ申していると思って、この女房たちが言っている。とても恥ずかしく、気持ちの上ではどちらとも思っていない。ただ夢のように茫然として、ひどくご執着なさっているのを、どうしてこんなにまで、と思うが、お頼り申し上げて長い間になる方を、今になって裏切ろうとは思わないからこそ、このように大変だと思って悩むのだ。なるほど、よくない事でも起こったときには」と、つくづくと思っていた。
 浮舟の姫君は、自分が宮に多く心をかれているときめてこの人たちのいっているのを聞くのも恥ずかしい、自分はどちらをどうとも判断もできないのに苦しんでいるのである、夢の中のようになすすべを知らないのである、はげしく自分をお思いになる方に対しては、なぜこうまでもと感激はしているが、良人おっとと思い、月日の長く積もった人から離れてしまおうとは思えないためにこんな煩悶がされるのである、右近が言ったように、これから表面に出て悪いことが起こってくればどうしようとつくづくと思い沈んでいた。
  to, ihi-tudukuru wo, Kimi, "Naho, ware wo, Miya ni kokoro-yose tatematuri taru to omohi te, kono hito-bito no ihu. Ito hadukasiku, kokoti ni ha idure to mo omoha zu. Tada yume no yau ni akire te, imiziku ira re tamahu wo ba, nado kaku simo, to bakari omohe do, tanomi kikoye te tosi-goro ni nari nuru hito wo, ima ha to mote-hanare m to omoha nu ni yori koso, kaku imizi to mono mo omohi midaru re. Geni, yokara nu koto mo ide-ki tara m toki." to, tuku-duku to omohi-wi tari.
6.7.5  「 まろは、いかで死なばや。世づかず心憂かりける身かな。かく、憂きことあるためしは、下衆などの中にだに 多くやはあなる
 「わたしは、何とかして死にたい。世間並に生きられないつらい身の上だわ。このような、嫌なことのある例は、下衆の中でさえ多くあろうか」
 「私はどうしてでも死にたい、人並みでない情けない私になったのだもの、こんな情けないことは低い身分の人たちにだってたくさんないはずね」
  "Maro ha, ikade sina baya! Yo-duka zu kokoro-ukari keru mi kana! Kaku, uki koto aru tamesi ha, gesu nado no naka ni dani ohoku ya ha a' naru."
6.7.6  とて、うつぶし臥したまへば、
 と言って、うつ臥しなさると、
 こう言って姫君はうつ伏しになって泣く。
  tote, utubusi husi tamahe ba,
6.7.7  「 かくな思し召しそ。やすらかに思しなせ、とてこそ 聞こえさせはべれ。思しぬべきことをも、さらぬ顔にのみ、のどかに見えさせたまへるを、この御事ののち、いみじく 心焦られをせさせたまへば、いとあやしくなむ見たてまつる」
 「そんなに思い詰めなさいますな。お心安く思いなさいませ、と思って申し上げたのでございます。お苦しみになることを、何げないふうにばかり、のんびりとお見えになるのを、この事件の後は、ひどくいらいらしていらっしゃるので、とても変だと拝見しております」
 「そんなに御心配をなさるものではありません。お心を少しでも楽にお持ちあそばすようにと思って申し上げたことでございますよ。お心に苦しいことがありましてもお気にとめておいであそばさないようにおおようにしておいでになりましたあなた様が、この問題が起こりました時からいらいらとなさいますふうの見えますのはどうしたことでしょう」
  "Kaku na obosimesi so. Yasuraka ni obosi nase, tote koso kikoye sase habere. Obosi nu beki koto wo mo, saranu kaho ni nomi, nodoka ni miye sase tamahe ru wo, kono ohom-koto no noti, imiziku kokoro-irare wo se sase tamahe ba, ito ayasiku nam mi tatematuru."
6.7.8  と、心知りたる限りは、皆かく思ひ乱れ騒ぐに、 乳母、おのが心をやりて、物染めいとなみゐたり。今参り童などのめやすきを呼び取りつつ、
 と、事情を知っている者だけは、みな心配しているのだが、乳母は、自分一人満足そうにして、染物などをしていた。新参の童女などで無難なのを呼んでは、
 とも右近はなだめていた。この人たちも思い乱れているのである。乳母は得意になって染めたり裁ったりしていた。新しく来た童女のかわいい顔をしたのを姫君のそばへ呼んで、
  to, kokoro-siri taru kagiri ha, mina kaku omohi-midare sawagu ni, Menoto, ono ga kokoro wo yari te, mono-zome itonami wi tari. Ima-mawiri-waraha nado no meyasuki wo yobi-tori tutu,
6.7.9  「 かかる人御覧ぜよ。あやしくてのみ臥させたまへるは、もののけなどの、妨げきこえさせむとするにこそ」と嘆く。
 「このような方を御覧なさい。変なことばかりに臥せっていらっしゃるのは、物の怪などが、お邪魔申し上げようとするのでしょう」と嘆く。
 「まあこんな人でもお慰めに御覧なさいましよ。いつもお気分がすぐれないようにおやすみになっていらっしゃるのは物怪もののけなどがおしあわせの道を妨げようとするのかもしれませんね」と言いながらも歎いていた。
  "Kakaru hito go-ran-ze yo. Ayasiku te nomi husa se tamahe ru ha, mononoke nado no, samatage kikoye sase m to suru ni koso." to nageku.
注釈673いさや右近は以下「いといみじくなむ」まで、右近の詞。6.7.1
注釈674それが婿の右近大夫といふ者内舎人の婿で右近大夫という者。薫は右大将なので、その直属の部下。6.7.2
注釈675よろづのことをおきて警護の万端を指図しおいて。6.7.2
注釈676よき人の御仲どちは身分の高い匂宮と薫の間柄では、の意。6.7.2
注釈677ありし夜の御ありきは匂宮と橘小島で過ごしたことをさす。6.7.3
注釈678浮舟。6.7.4
注釈679なほ我を以下「出で来たらむとき」まで、浮舟の心中の思い。6.7.4
注釈680いづれとも思はず匂宮とも薫とも。6.7.4
注釈681いみじく焦られたまふを主語は匂宮。6.7.4
注釈682頼みきこえて年ごろになりぬる人を薫。薫の保護を受けて足かけ二年めになる。6.7.4
注釈683まろはいかで死なばや以下「おほくやはある」まで、浮舟の詞。6.7.5
注釈684多くやはあなる反語表現。6.7.5
注釈685かくな思し召しそ以下「見たてまつる」まで、右近の詞。6.7.7
注釈686聞こえさせはべれ右近の浮舟に対する丁重な謙譲表現。6.7.7
注釈687心焦られをせさせたまへば主語は浮舟。6.7.7
注釈688乳母おのが心をやりて事情を知らない乳母は満足げに京の薫邸に移るための準備に余念がない。6.7.8
注釈689かかる人御覧ぜよ以下「するにこそ」まで、乳母の詞。『完訳』は「浮舟への言葉。気晴らしに女童でも相手になさい、の意」と注す。6.7.9
Last updated 4/30/2002
渋谷栄一校訂(C)(ver.1-2-2)
Last updated 4/30/2002
渋谷栄一注釈(ver.1-1-2)
Last updated 4/30/2002
渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)
現代語訳
与謝野晶子
電子化
上田英代(古典総合研究所)
底本
角川文庫 全訳源氏物語
校正・
ルビ復活
柳沢成雄(青空文庫)

2005年2月23日

渋谷栄一訳
との突合せ
若林貴幸、宮脇文経

2005年9月15日

Last updated 11/9/2002
Written in Japanese roman letters
by Eiichi Shibuya (C) (ver.1-3-2)
Picture "Eiri Genji Monogatari"(1650 1st edition)
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