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37 横笛(大島本)
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YOKOBUE
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光る源氏の准太上天皇時代 四十九歳春から秋までの物語
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Tale of Hikaru-Genji's Daijo Tenno era, from spring to fall, at the age of 49
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3 |
第三章 夕霧の物語 匂宮と薫
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3 The tale of Yugiri Children Nio-no-Miya and Kaoru in Rokujo-in
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3.1 |
第一段 夕霧、六条院を訪問
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3-1 Yugiri visits Rokujo-in to meet Genji
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3.1.1 |
大将の君も、夢思し出づるに、
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大将の君も、夢を思い出しなさると、
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大将は夢を思うと贈られた横笛ももてあまされる気がした。
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Daisyau-no-Kimi mo, yume obosi-iduru ni,
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3.1.2 |
「 この笛のわづらはしくもあるかな。 人の心とどめて思へりしものの、行くべき方にもあらず。 女の御伝へはかひなきをや。 いかが思ひつらむ。この世にて、数に思ひ入れぬことも、かの今はのとぢめに、一念の恨めしきも、もしはあはれとも思ふにまつはれてこそは、 長き夜の闇にも惑ふわざななれ。かかればこそは、何ごとにも執はとどめじと思ふ世なれ」
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「この笛は厄介なものだな。故人が執着していた笛の、行くべき所ではなかったのだ。女方から伝わっても意味のなことだ。どのように思ったことだろう。この世に、物の数にも入らない些事も、あの臨終の際に、一心に恨めしく思ったり、または愛情を持ったりしては、無明長夜の闇に迷うということだ。そうだからこそ、どのようなことにも執着は持つまいと思うのだ」
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故人の強い愛着の遺った品がやりたく思う人の手に行っていぬものらしい。しかも宮の御もとへ置きたく思う理由もない。それは笛が女の吹奏を待つものでないからである。生きておれば何とも思わぬことが臨終の際にふと気がかりになったり、ふと恋しく心が残ったりすることで幽魂が浄土へは向かわず宙宇に迷うと言われている。そうであるから人間は何事にも執着になるほどの関心を持ってはならない
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"Kono hue no wadurahasiku mo aru kana! Hito no kokoro todome te omohe ri si mono no, yuku beki kata ni mo ara zu. Womna no ohom-tutahe ha kahinaki wo ya! Ikaga omohi tura m? Kono yo ni te, kazu ni omohi-ire nu koto mo, kano imaha no todime ni, itinen no uramesiki mo, mosi ha ahare to mo omohu ni matuhare te koso ha, nagaki yo no yami ni mo madohu waza na' nare. Kakare ba koso ha, nanigoto ni mo sihu ha todome zi to omohu yo nare."
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3.1.3 |
など、思し続けて、 愛宕に誦経せさせたまふ。また、 かの心寄せの寺にもせさせたまひて、
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などと、お考え続けなさって、愛宕で誦経をおさせになる。また、故人が帰依していた寺にもおさせになって、
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のであると、こんなことを思って大納言のために愛宕の寺で誦経をさせ、またそのほか故人と縁故のある寺でも同じく経を読ませた。
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nado, obosi-tuduke te, Otagi ni zyukyau se sase tamahu. Mata, kano kokoro-yose no tera ni mo se sase tamahi te,
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3.1.4 |
「 この笛をば、わざと 人のさるゆゑ深きものにて、引き出でたまへりしを、たちまちに 仏の道におもむけむも、尊きこととはいひながら、あへなかるべし」
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「この笛を、わざわざ御息所が特別の遺品として、譲り下さったのを、すぐにお寺に納めるのも、供養になるとは言うものの、あまりにあっけなさぎよう」
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この笛を歴史的価値のある物として、好意で自分へ贈った人に対しては、それがどんな尊いことであっても寺へ納めたりしてしまうことも不本意なことである
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"Kono hue wo ba, wazato hito no saru yuwe hukaki mono ni te, hiki-ide tamahe ri si wo, tatimati ni Hotoke no miti ni omomuke m mo, tahutoki koto to ha ihi nagara, ahenakaru besi."
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3.1.5 |
と思ひて、六条の院に参りたまひぬ。
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と思って、六条院に参上なさった。
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と思って、大将は六条院へ参った。
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to omohi te, Rokudeu-no-Win ni mawiri tamahi nu.
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3.1.6 |
女御の御方におはしますほどなりけり。 三の宮、三つばかりにて、中にうつくしくおはするを、 こなたにぞまた取り分きておはしまさせたまひける。走り出でたまひて、
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女御の御方にいらっしゃる時なのであった。三の宮は、三歳ほどで、親王の中でもかわいらしくいらっしゃるのを、こちらではまた特別に引き取ってお住ませなさっているのであった。走っておいでになって、
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その時院は姫君の女御の御殿へ行っておいでになった。三歳ぐらいになっておいでになる三の宮を女一の宮と同じように紫の女王がお養いしていて、対へお置き申してあるのであるが、大将が行くと走っておいでになって、
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Nyougo no ohom-kata ni ohasimasu hodo nari keri. Sam-no-Miya, mi-tu bakari ni te, naka ni utukusiku ohasuru wo, konata ni zo mata tori waki te ohasimasa se tamahi keru. Hasiri-ide tamahi te,
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3.1.7 |
「 大将こそ、宮抱きたてまつりて、あなたへ率ておはせ」
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「大将よ、宮をお抱き申して、あちらへ連れていらっしゃい」
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「大将さん、私を抱いてあちらの御殿へつれて行ってちょうだい」
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"Daisyau koso, Miya idaki tatematuri te, anata he wi te ohase."
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3.1.8 |
と、みづからかしこまりて、いとしどけなげにのたまへば、 うち笑ひて、
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と、自分に敬語をつけて、とても甘えておっしゃるので、ほほ笑んで、
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うやうやしい態度で、そしてお小さい方らしくお言いになると、大将は笑って、
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to, midukara kasikomari te, ito sidokenage ni notamahe ba, uti-warahi te,
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3.1.9 |
「 おはしませ。いかでか 御簾の前をば渡りはべらむ。いと軽々ならむ」
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「いらっしゃい。どうして御簾の前を行けましょうか。たいそう無作法でしょう」
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「いらっしゃいませ。けれど女王様のお御簾の前をどうしてお通りいたしましょう。私よりもあなた様がお困りになりましょう」
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"Ohasimase. Ikade ka mi-su no mahe wo ba watari habera m. Ito kyau-kyau nara m."
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3.1.10 |
とて、抱きたてまつりてゐたまへれば、
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と言って、お抱き申してお座りになると、
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こう言いながらすわった膝へ宮を抱いておのせすると、
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tote, idaki tatematuri te wi tamahe re ba,
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3.1.11 |
「 人も見ず。まろ、顔は隠さむ。なほなほ」
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「誰も見ていません。わたしが、顔を隠そう。さあさあ」
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「だれも見ないよ。いいよ。私顔を隠して行くから」
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"Hito mo mi zu. Maro, kaho ha kakusa m. Naho-naho."
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3.1.12 |
とて、御袖してさし隠したまへば、いとうつくしうて、率てたてまつりたまふ。
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と言って、お袖で顔をお隠しになるので、とてもかわいらしいので、お連れ申し上げなさる。
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宮が袖を顔へお当てになるのもおかわいらしくて大将はそのまま寝殿のほうへお抱きして行った。
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tote, ohom-sode si te sasi-kakusi tamahe ba, ito utukusiu te, wi te tatematuri tamhu.
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3.2 |
第二段 源氏の孫君たち、夕霧を奪い合う
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3-2 Grandsons of Genji scramble for Yugiri
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3.2.1 |
こなたにも、 二の宮の、若君とひとつに混じりて遊びたまふ、 うつくしみておはしますなりけり。隅の間のほどに下ろしたてまつりたまふを、二の宮見つけたまひて、
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こちら方にも、二の宮が、若君とご一緒になって遊んでいらっしゃるのを、かわいがっておいであそばすのであった。隅の間の所にお下ろし申し上げなさるのを、二の宮が見つけなさって、
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こちらの御殿のほうでも院が宮の若君と二の宮がいっしょに遊んでおいでになるのをかわいく思ってながめておいでになるのであった。かどのお座敷の前で三の宮をお下ろししたのを、二の宮がお見つけになって、
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Konata ni mo, Ni-no-Miya no, Waka-Gimi to hitotu ni maziri te asobi tamahu, utukusimi te ohasimasu nari keri. Sumi-no-ma no hodo ni orosi tatematuri tamahu wo, Ni-no-Miya mituke tamahi te,
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3.2.2 |
「 まろも大将に抱かれむ」
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「わたしも大将に抱かれたい」
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「私も大将に抱いていただくのだ」
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"Maro mo Daisyau ni idaka re m."
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3.2.3 |
とのたまふを、三の宮、
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とおっしゃるのを、三の宮は、
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とお言いになると、三の宮が、
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to notamahu wo, Sam-no-miya,
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3.2.4 |
「 あが大将をや」
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「わたしの大将なのだから」
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「いけない、私の大将だもの」
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"Aga Daisyau wo ya!"
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3.2.5 |
とて、控へたまへり。院も御覧じて、
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と言って、お放しにならない。院も御覧になって、
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と言って伯父君の上着を引っぱっておいでになる。院が御覧になって、
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tote, hikahe tamahe ri. Win mo go-ran-zi te,
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3.2.6 |
「 いと乱りがはしき御ありさまどもかな。公の御近き守りを、私の随身に領ぜむと争ひたまふよ。三の宮こそ、いとさがなくおはすれ。常に兄に競ひ申したまふ」
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「まことにお行儀の悪いお二方ですね。朝廷のお身近の警護の人を、自分の随身にしようと争いなさるとは。三の宮が、特にいじわるでいらっしゃいます。いつも兄宮に負けまいとなさる」
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「お行儀のないことですよ。お上のお付きの大将を御自分のものにしようとお争いになったりしてはなりませんよ。三の宮さんはよくわからずやをお言いになりますね。いつでもお兄様に反抗をなさいますね」
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"Ito midari-gahasiki mi-arisama-domo kana! Ohoyake no ohom-tikaki mamori wo, watakusi no zuizin ni ryau-ze m to arasohi tamahu yo! Sam-no-Miya koso, ito saganaku ohasure. Tune ni konokami ni kihohi mausi tamahu."
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3.2.7 |
と、諌めきこえ扱ひたまふ。大将も笑ひて、
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と、おたしなめ申して仲裁なさる。大将も笑って、
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とお訓しになる。大将も笑って、
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to, isame kikoye atukahi tamahu. Daisyau mo warahi te,
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3.2.8 |
「 二の宮は、こよなく兄心にところさりきこえたまふ御心深くなむおはしますめる。 御年のほどよりは、恐ろしきまで見えさせたまふ」
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「二の宮は、すっかりお兄様らしく弟君に譲って上げるお気持ちが十分におありのようです。お年のわりには、こわいほどご立派にお見えになります」
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「二の宮様はずいぶんお兄様らしくて、お小さい方によくお譲りになったり、思いやりのあることをなさいます。大人でも恥ずかしくなるほどでございます」
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"Ni-no-Miya ha, koyonaku konokami-gokoro ni tokoro-sari kikoye tamahu mi-kokoro hukaku nam ohasimasu meru. Ohom-tosi no hodo yori ha, osorosiki made miye sase tamahu."
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3.2.9 |
など聞こえたまふ。 うち笑みて、いづれもいとうつくしと思ひきこえさせたまへり。
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などと申し上げなさる。ほほ笑んで、どちらもとてもかわいらしいとお思い申し上げあそばしていらっしゃった。
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こんなことを言っていた。院は微笑を顔にお浮かべになって、お小言はお言いになったものの、どちらもかわいくてならぬというような表情をしておいでになった。
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nado kikoye tamahu. Uti-wemi te, idure mo ito utukusi to omohi kikoye sase tamahe ri.
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3.2.10 |
「 見苦しく軽々しき 公卿の御座なり。 あなたにこそ」
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「見苦しく失礼なお席だ。あちらへ」
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「公卿をこんな失礼な所へ置いてはおけない。対のほうへ行くことにしよう」
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"Mi-gurusiku karu-garusiki kugyau no mi-za nari. Anata ni koso."
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3.2.11 |
とて、渡りたまはむとするに、宮たちまつはれて、さらに離れたまはず。 宮の若君は、宮たちの御列にはあるまじきぞかしと、御心 のうちに思せど、 なかなかその御心ばへを、母宮の、御心の鬼にや思ひ寄せたまふらむと、これも心の癖に、 いとほしう思さるれば、 いとらうたきものに思ひかしづききこえたまふ。
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とおっしゃって、お渡りになろうとすると、宮たちがまとわりついて、まったくお離れにならない。宮の若君は、宮たちとご同列に扱うべきではないと、ご心中にはお考えになるが、かえってそのお気持ちを、母宮が、心にとがめて気を回されることだろうと、これもまたご性分で、お気の毒に思われなさるので、とても大切にお扱い申し上げなさる。
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とお言いになって、立とうとあそばされるのであるが、宮たちがまつわってお離れにならない。宮の若君は宮たちと同じに扱うべきでないとお心の中では思召されるのであるが、女三の尼宮が心の鬼からその差別待遇をゆがめて解釈されることがあってはと、優しい御性質の院はお思いになって、若君をもおかわいがりになり、大事にもあそばすのであった。
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tote, watari tamaha m to suru ni, Miya-tati matuhare te, sara ni hanare tamaha zu. Miya no Waka-Gimi ha, Miya-tati no ohom-tura ni ha arumaziki zo kasi to, mi-kokoro no uti ni obose do, naka-naka sono mi-kokorobahe wo, Haha-Miya no, mi-kokoro-no-oni ni ya omohi-yose tamahu ram to, kore mo kokoro no kuse ni, itohosiu obosa rure ba, ito rautaki mono ni omohi kasiduki kikoye tamahu.
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3.3 |
第三段 夕霧、薫をしみじみと見る
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3-3 Yugiri stares Kaoru in the face
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3.3.1 |
大将は、この君を「 まだえよくも見ぬかな」と思して、 御簾の隙よりさし出でたまへるに、花の枝の枯れて落ちたるを取りて、見せたてまつりて、招きたまへば、走りおはしたり。
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大将は、この若君を「まだよく見ていないな」とお思いになって、御簾の間からお顔をお出しになったところを、花の枝が枯れて落ちているのを取って、お見せ申して、お呼びなさると、走っていらっしゃった。
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大将はこの若君をまだよく今までに顔を見なかったと思って、御簾の間から顔を出した時に、花の萎れた枝の落ちているのを手に取って、その児に見せながら招くと、若君は走って来た。
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Daisyau ha, kono Kimi wo "Mada e yoku mo mi nu kana!" to obosi te, mi-su no hima yori sasi-ide tamahe ru ni, hana no yeda no kare te oti taru wo tori te, mise tatematuri te, maneki tamahe ba, hasiri ohasi tari.
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3.3.2 |
二藍の直衣の限りを着て、いみじう白う光りうつくしきこと、 皇子たちよりもこまかにをかしげにて、つぶつぶときよらなり。 なま目とまる心も添ひて見ればにや ★、眼居など、これは今すこし強うかどあるさま まさりたれど、まじりのとぢめをかしうかをれるけしきなど、 いとよくおぼえたまへり。
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二藍の直衣だけを着て、たいそう色白で光輝いてつやつやとかわいらしいこと、親王たちよりもいっそうきめこまかに整っていらっしゃって、まるまると太りおきれいである。何となくそう思って見るせいか、目つきなど、この子は少しきつく才走った様子は衛門督以上だが、目尻の切れが美しく輝いている様子など、とてもよく似ていらっしゃった。
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薄藍色の直衣だけを上に着ているこの小さい人の色が白くて光るような美しさは、皇子がたにもまさっていて、きわめて清らかな感じのする子であった。ある疑問に似たものを持つ思いなしか、眸ざしなどにはその人のよりも聡慧らしさが強く現われては見えるが、切れ長な目の目じりのあたりの艶な所などはよく柏木に似ていると思われた。
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Hutaawi no nahosi no kagiri wo ki te, imiziu sirou hikari utukusiki koto, Miko-tati yori mo komaka ni wokasige ni te, tubu-tubu to kiyora nari. Nama-me tomaru kokoro mo sohi te mire ba ni ya, manako-wi nado, kore ha ima sukosi tuyou kado aru sama masari tare do, maziri no todime wokasiu kawore ru kesiki nado, ito yoku oboye tamahe ri.
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3.3.3 |
口つきの、ことさらにはなやかなるさまして、うち笑みたるなど、「 わが目のうちつけなるにやあらむ、 大殿はかならず思し寄すらむ」と、 いよいよ御けしきゆかし。
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口もとが、特別にはなやかな感じがして、ほほ笑んでいるところなどは、「自分がふとそう思ったせいなのか、大殿はきっとお気づきであろう」と、ますますご心中が知りたい。
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美しい口もとの笑う時にことさらはなやかに見えることなどは自分の心に潜在するものがそう思わせるのかもしらぬが、院のお目には必ずお思い合わせになることがあろうと考えられるほど似ていると、大将は異母弟を見ながらも、いよいよ院が柏木に対してどう思っておいでになるかを早く知りたくなった。
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Kutituki no, kotosara ni hanayaka naru sama si te, uti-wemi taru nado, "Waga me no utituke naru ni ya ara m, Otodo ha kanarazu obosi-yosu ram." to, iyo-iyo mi-kesiki yukasi.
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3.3.4 |
宮たちは、思ひなしこそ気高けれ、世の常のうつくしき稚児どもと見えたまふに、この君は、いとあてなるものから、さま異にをかしげなるを、見比べたてまつりつつ、
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宮たちは、親王だと思うせいから気高くもみえるものの、世間普通のかわいらしい子供とお見えになるのだが、この君は、とても上品な一方で、特別に美しい様子なので、ご比較申し上げながら、
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宮がたは自然に気高くお見えになるところはあるが、普通のきれいな子供とさまで変わってはおいでにならないのに、若君は貴族の子らしい品格のほかに、
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Miya-tati ha, omohi-nasi koso kedakakere, yo no tune no utukusiki tigo-domo to miye tamahu ni, kono Kimi ha, ito ate naru monokara, sama koto ni wokasige naru wo, mi-kurabe tatematuri tutu,
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3.3.5 |
「 いで、あはれ。もし疑ふゆゑもまことならば、 父大臣の、さばかり世にいみじく思ひほれたまて、
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「何と、かわいそうな。もし自分の疑いが本当なら、父大臣が、あれほどすっかり気落ちしていらして、
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何ものにも優越した美の備わっているのを、大将は比べて思いながら、哀れなことである、自分の推測が真実であれば柏木の父の大臣は故人を切に思う心から、
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"Ide, ahare! Mosi utagahu yuwe mo makoto nara ba, titi-Otodo no, sabakari yo ni imiziku omohi hore tama' te,
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3.3.6 |
『 子と名のり出でくる人だになきこと。形見に見るばかりの名残をだにとどめよかし』
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『子供だと名乗って出て来る人さえいないことよ。形見と思って世話する者でもせめて遺してくれ』
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柏木の子供であると名のって来る者の出て来ないことに失望して、それだけの形見をすら不幸な親に残してくれなかった
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"Ko to nanori ide-kuru hito dani naki koto. Katami ni miru bakari no nagori wo dani todome yo kasi."
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3.3.7 |
と、泣き焦がれたまふに、 聞かせたてまつらざらむ罪得がましさ」など思ふも、「 いで、いかでさはあるべきことぞ」
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と、泣き焦がれていらしたのに、お知らせ申し上げないのも罪なことではないか」などと思うが、「いや、どうしてそんなことがありえよう」
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と言って泣きこがれているのであるから、知らせないでいるのは罪作りなことになろうと考えられて来るうちにまた、そんなことはありうることではないと否定もされる。
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to, naki-kogare tamahu ni, kika se tatematura zara m tumi e gamasisa." nado omohu mo, "Ide, ikade saha aru beki koto zo."
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3.3.8 |
と、なほ心得ず、思ひ寄る方なし。 心ばへさへなつかしうあはれにて、 睦れ遊びたまへば、いとらうたくおぼゆ。
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と、やはり納得がゆかず、推測のしようもない。気立てまでが優しくおとなしくて、じゃれていらっしゃるので、とてもかわいらしく思われる。
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ますます不可解な問題であると大将は思った。性質もなつかしく優しい子で、大将に馴染んでそばを離れず遊んでいるのもかわいく思われた。
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to, naho kokoro e zu, omohi-yoru kata nasi. Kokorobahe sahe natukasiu ahare ni te, muture asobi tamahe ba, ito rautaku oboyu.
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3.4 |
第四段 夕霧、源氏と対話す
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3-4 Yugiri talks with Genji
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3.4.1 |
対へ渡りたまひぬれば、のどやかに御物語など聞こえておはするほどに、日暮れかかりぬ。昨夜、かの一条の宮に参うでたりしに、 おはせしありさまなど聞こえ出でたまへるを、ほほ笑みて聞きおはす。 あはれなる昔のこと、かかりたる節々は、あへしらひなどしたまふに、
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対へお渡りになったので、のんびりとお話など申し上げていらっしゃるうちに、日も暮れかかって来た。昨夜、あの一条宮邸に参った時に、おいでになっていたご様子などを申し上げなさったところ、ほほ笑んで聞いていらっしゃる。気の毒な故人の話、関係のある話の節々には、あいずちなどを打ちなさって、
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院が対のほうへおいでになったのでお供をして行って大将がお話をかわしているうちに日も暮れかかってきた。昨夜一条の宮をお訪ねした時のあちらの様子などを大将が語るのを院は微笑して聞いておいでになった。故人に関することが出てくる時には言葉もおはさみになって同情して聞いておいでになるのであったが、
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Tai he watari tamahi nure ba, nodoyaka ni ohom-monogatari nado kikoye te ohasuru hodo ni, hi kure kakari nu. Yobe, kano Itideu-no-Miya ni maude tari si ni, ohase si arisama nado kikoye-ide tamahe ru wo, hohowemi te kiki ohasu. Ahare naru mukasi no koto, kakari taru husi-busi ha, ahesirahi nado si tamahu ni,
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3.4.2 |
「 かの想夫恋の心ばへは、げに、いにしへの例にも引き出でつべかりけるをりながら、 女は、なほ、人の心移るばかりのゆゑよしをも、おぼろけにては漏らすまじうこそありけれと、思ひ知らるることどもこそ多かれ。
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「あの想夫恋を弾いた気持ちは、なるほど、昔の風流の例として引き合いに出してもよさそうなところであるが、女は、やはり、男が心を動かす程度の風流があっても、いい加減なことでは表わすべきではないことだと、考えさせられることが多いな。
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「想夫恋を少しお合わせになったということなどは非常におもしろくて文学的ではあるが、しかし自分の意見として言えば女は異性を知らず知らず興奮させるような結果までを考慮してどこまでも避けねばならぬことだと思うがね、
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"Kano Sauhuren no kokorobahe ha, geni, inisihe no tamesi ni mo hiki-ide tu bekari keru wori nagara, womna ha, naho, hito no kokoro-uturu bakari no yuwe yosi wo mo, oboroke ni te ha morasu maziu koso ari kere to, omohi-sira ruru koto-domo koso ohokare.
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3.4.3 |
過ぎにし方の心ざしを忘れず、かく長き用意を、 人に知られぬとならば、同じうは、心きよくて、とかくかかづらひ、 ゆかしげなき乱れなからむや、誰がためも心にくく、めやすかるべきことならむとなむ思ふ」
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故人への情誼を忘れず、このように末長い好意を、先方も知られたとならば、同じことなら、きれいな気持ちで、あれこれとかかわり合って、面白くない間違いを起こさないのが、どちらにとっても奥ゆかしく、世間体も穏やかなことであろうと思う」
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故人への情誼で御親切にし始めたのであれば、君はどこまでもきれいな心でお交際をしなければならないよ。あやまちのないようにね。苦しい結果を引き起こすようなことのないようにするのがどちらのためにもいいことだろうと思う」
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Sugi ni si kata no kokorozasi wo wasure zu, kaku nagaki youi wo, hito ni sira re nu to nara ba, onaziu ha, kokoro kiyoku te, tokaku kakadurahi, yukasigenaki midare nakara m ya, ta ga tame mo kokoro-nikuku, meyasukaru beki koto nara m to nam omohu."
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3.4.4 |
とのたまへば、「 さかし。人の上の御教へばかりは心強げにて、かかる好きはいでや」と、見たてまつりたまふ。
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とおっしゃるので、「そのとおりだ。他人へのお説教だけはしっかりしたものだが、このような好色の道はどうかな」と、拝見なさる。
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と院はお言いになった。大将は心に、このお言葉は承服されない、人をお教えになるのには賢いことを仰せられても、御自身がこの場合に処して御冷静でありうるであろうかと思っていた。
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to notamahe ba, "Sakasi. Hito no uhe no ohom-wosihe bakari ha kokoro tuyoge ni te, kakaru suki ha ide ya?" to, mi tatematuri tamahu.
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3.4.5 |
「 何の乱れかはべらむ。なほ、常ならぬ世のあはれをかけそめはべりにしあたりに、 心短くはべらむこそ、なかなか 世の常の嫌疑あり顔にはべらめとてこそ。
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「何の間違いがございましょう。やはり、無常の世の同情から世話をするようになりました方々に、当座だけのいたわりで終わったら、かえって世間にありふれた疑いを受けましょうと思ってです。
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「あやまちなどの起こりようはありません。人生の無常に直面されたかたがたを宗教的な気持ちで慰めて差し上げる義務があるように思いましてお交際を始めたのですから、すぐまたその友情から離れますようなことをしましては、かえって普通の失敗した野心家らしく世間から思われるだろうと考えますから、いつまでも友情は捨てないつもりでおります。
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"Nani no midare ka habera m? Naho, tune nara nu yo no ahare wo kake-some haberi ni si atari ni, kokoro-mizikaku habera m koso, naka-naka yo no tune no kengi ari gaho ni habera me tote koso.
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3.4.6 |
想夫恋は、心とさし過ぎて こと出でたまはむや、憎きことにはべらまし、もののついでにほのかなりしは、をりからのよしづきて、をかしうなむはべりし。
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想夫恋は、ご自分の方から弾き出しなさったのなら、非難されることにもなりましょうが、ことのついでに、ちょっとお弾きになったのは、あの時にふさわしい感じがして、興趣がございました。
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想夫恋をお弾きになりましたことで御非難のお言葉がございましたが、あちらが進んでなすったことであればそれは決しておもしろい話ではございませんが、私の参ります前から弾いておいでになりました琴を、ただ少しばかり私の想夫恋に合わせてくださいましたのですから、非常にその場の情景にかなってよかったのでございます。
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Sauhuren ha, kokoro to sasi-sugi te koto ide tamaha m ya, nikuki koto ni habera masi, mono no tuide ni honoka nari si ha, wori kara no yosiduki te, wokasiu nam haberi si.
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3.4.7 |
何ごとも、人により、ことに従ふわざにこそはべるべかめれ。 齢なども、やうやういたう若びたまふべきほどにもものしたまはず、 また、あざれがましう、好き好きしきけしきなどに、もの馴れ などもしはべらぬに、 うちとけたまふにや。おほかたなつかしうめやすき人の御ありさまになむものしたまひける」
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何事も、人次第、事柄次第の事でございましょう。年齢なども、だんだんと、若々しいお振る舞いが相応しいお年頃ではいらっしゃいませんし、また、冗談を言って、好色がましい態度を見せることに、馴れておりませんので、お気を許されるでしょうか。大体が優しく無難なお方のご様子でいらっしゃいました」
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どんなこともその女性次第だと思います。御年齢などもきらきらとする若さを少し越えていらっしゃいます方が、好色漢のような態度をお見せするはずもない私に、親しい友情が生じまして、私の願ったことが聞いていただけたというようなことは恥ずかしいこととは思われません。御観察申し上げるところでは非常に女らしい優しい御性質のようです」
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Nani-goto mo, hito ni yori, koto ni sitagahu waza ni koso haberu beka' mere. Yohahi nado mo, yau-yau itau wakabi tamahu beki hodo ni mo monosi tamaha zu, mata, azare gamasiu, suki-zukisiki kesiki nado ni, mono-nare nado mo si habera nu ni, uti-toke tamahu ni ya? Ohokata natukasiu meyasuki hito no ohom-arisama ni nam monosi tamahi keru."
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3.4.8 |
など聞こえたまふに、 いとよきついで作り出でて、すこし近く参り寄りたまひて、 かの夢語りを聞こえたまへば、とみにものものたまはで、聞こしめして、思し合はすることもあり。
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などと申し上げなさっているうちに、ちょうどよい機会を作り出して、少し近くに寄りなさって、あの夢のお話を申し上げなさると、すぐにはお返事をなさらずに、お聞きあそばして、お気づきあそばすことがある。
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こんな話をしていた大将は、かねて願っている機会が到来したように思い、少し院のお座へ近づいて昨夜の夢の話をした。ものも言わずに聞いておいでになった院のお心の中にはお思い合わせになることがあった。
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nado kikoye tamahu ni, ito yoki tuide tukuri ide te, sukosi tikaku mawiri yori tamahi te, kano yume gatari wo kikoye tamahe ba, tomi ni mono mo notamaha de, kikosimesi te, obosi ahasuru koto mo ari.
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3.5 |
第五段 笛を源氏に預ける
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3-5 Yugiri transfer the flute to Genji
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3.5.1 |
「 その笛は、ここに見るべきゆゑあるものなり。かれは 陽成院の御笛なり。それを 故式部卿宮の、いみじきものにしたまひけるを、かの衛門督は、童よりいと異なる音を吹き出でしに感じて、 かの宮の萩の宴せられける日、贈り物に取らせたまへるなり。女の心は深くもたどり知らず、しか ものしたるななり」
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「その笛は、わたしが預からねばならない理由がある物だ。それは陽成院の御笛だ。それを故式部卿宮が大事になさっていたが、あの衛門督は、子供の時から大変上手に笛を吹いたのに感心して、故式部卿宮が萩の宴を催された日、贈り物にお与えになったものだ。女の考えで深い由緒もよく知らず、そのように与えたのだろう」
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「その笛は私の所へ置いておく因縁があるものなのだよ。昔は陽成院の御物だったものなのだがね。私の叔父のお亡くなりになった式部卿の宮が秘蔵しておいでになったのを、あの衛門督は子供の時から笛がことによくできたものだから、宮のお邸で萩の宴のあった時に贈り物としてお与えになったのだ。御婦人がたは深いお考えもなしに君へ贈られたのだろう」
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"Sono hue ha, koko ni miru beki yuwe aru mono nari. Kare ha Yauzei-Win no ohom-hue nari. Sore wo ko-Sikibukyau-no-Miya no, imiziki mono ni si tamahi keru wo, kano Wemon-no-Kami ha, waraha yori ito koto naru ne wo huki-ide si ni kan-zi te, kano Miya no hagi-no-en se rare keru hi, okurimono ni tora se tamahe ru nari. Womna no kokoro ha hukaku mo tadori sira zu, sika monosi taru na' nari."
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3.5.2 |
などのたまひて、
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などとおっしゃって、
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院はこうお言いになるのであった。
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nado notamahi te,
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3.5.3 |
「 末の世の伝へ、またいづ方にとかは思ひまがへむ。 さやうに思ふなりけむかし」など思して、「 この君もいといたり深き人なれば、思ひ寄ることあらむかし」と思す。
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「子孫に伝えたいということは、また他に誰と間違えようか。そのように考えたのだろう」などとお考えになって、「この君も思慮深い人なので、気づくこともあろうな」とお思いになる。
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御心中ではまず手もとへ置こう、死後にもとの持ち主の譲らせたい人は分明であると思召された。聡明な大将にはもう想像ができていて、今持ち合わせてもいるのであろうとお思いになるのであった。
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"Suwe-no-yo no tutahe, mata idu-kata ni to ka ha omohi magahe m. Sayau ni omohu nari kem kasi." nado obosi te, "Kono Kimi mo ito hukaki hito nare ba, omohi-yoru koto ara m kasi." to obosu.
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3.5.4 |
その御けしきを見るに、いとど憚りて、とみにも うち出で聞こえたまはねど、せめて聞かせたてまつらむの心あれば、今しもことのついでに思ひ出でたるやうに、おぼめかしう もてなして、
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そのご表情を見ていると、ますます遠慮されて、すぐにはお話し申し上げなされないが、せめてお聞かせ申そうとの思いがあるので、ちょうど今この機会に思い出したように、はっきり分からないふりをして、
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すべてを察しになった院のお顔色を見てはいっそう大将は打ち出しにくくなるのであるが、ぜひ伺ってみたい気持ちがあって、ただこの瞬間に心へ浮かんできたというようにして、思い出し思い出し申すように言う、
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Sono mi-kesiki wo miru ni, itodo habakari te, tomi ni mo uti-ide kikoye tamaha ne do, semete kika se tatematura m no kokoro are ba, ima simo koto no tuide ni omohi-ide taru yau ni, obomekasiu motenasi te,
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3.5.5 |
「 今はとせしほどにも、とぶらひにまかりてはべりしに、亡からむ後のことども言ひ置きはべりし中に、 しかしかなむ深くかしこまり申すよしを、返す返すものしはべりしかば、いかなることにかはべりけむ、今にそのゆゑをなむえ思ひたまへ寄りはべらねば、おぼつかなくはべる」
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「臨終となった折にも、お見舞いに参上いたしましたところ、亡くなった後の事を遺言されました中に、これこれしかじかと、深く恐縮申している旨を、繰り返し言いましたので、どのようなことでしょうか、今に至までその理由が分かりませんので、気に掛かっているのでございます」
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「もう衛門督が終焉に近いころでございました。見舞いにまいりました私に、いろいろ遺言をいたしました中に、六条院様に対して深い罪を感じているということを繰り返し繰り返し言ったのでございましたが、ただ御感情を害していると聞きましただけでは、私によくわからないのでしたが、どんなことだったのでございましょう。ただ今もまだよくわからないのでございます」
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"Ima ha to se si hodo ni mo, toburahi ni makari te haberi si ni, nakara m noti no koto-domo ihi-oki haberi si naka ni, sika-sika nam hukaku kasikomari mausu yosi wo, kahesu gahesu monosi haberi sika ba, ika naru koto ni ka haberi kem, ima ni sono yuwe wo nam e omohi tamahe yori habera ne ba, obotukanaku haberu."
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3.5.6 |
と、いとたどたどしげに聞こえたまふに、
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と、いかにも腑に落ちないように申し上げなさるので、
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自分が感じたように
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to, ito tado-tadosige ni kikoye tamahu ni,
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3.5.7 |
「 さればよ」
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「やはり知っているのだな」
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大将はあの秘密の全貌を知っているのである
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"Sare ba yo!"
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3.5.8 |
と思せど、何かは、そのほどの事あらはしのたまふべきならねば、しばしおぼめかしくて、
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とお思いになるが、どうして、そのような事柄をお口にすべきではないので、暫くは分からないふりをして、
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と院はお悟りになったのであるが、くわしくお語りになるべきことでもないので、しばらくは突然いぶかしい話を聞くというような御表情を見せておいでになったあとで、
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to obose do, nanikaha, sono hodo no koto arahasi notamahu beki nara ne ba, sibasi obomekasiku te,
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3.5.9 |
「 しか、人の恨みとまるばかりのけしきは、 何のついでにかは漏り出でけむと、みづからもえ思ひ出でずなむ。さて、今静かに、かの夢は思ひ合はせてなむ聞こゆべき。 夜語らずとか、女房の伝へに ★言ふなり」
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「そのような、人に恨まれるような事は、いつしただろうかと、自分自身でも思い出す事ができないな。それはそれとして、そのうちゆっくり、あの夢の事は考えがついてからお話し申そう。夜には夢の話はしないものだとか、女房たちが言い伝えているようだ」
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「そんなに死んで行く時にまで人の気にかけるようなことはいつ自分が言ったりしたりしたのだろう。私にもわからない、思い出せないよ。いずれ静かな時を見て君の夢に関する細かな説明はしてあげよう。夢の話を夜はしてならないものだとか、迷信だろうが女の人などは言うものだよ」
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"Sika, hito no urami tomaru bakari no kesiki ha, nani no tuide ni ka ha mori-ide kem to, midukara mo e omohi-ide zu nam. Sate, ima siduka ni, kano yume ha omohi ahase te nam kikoyu beki. Yoru katara zu to ka, nyoubau no tutahe ni ihu nari."
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3.5.10 |
とのたまひて、をさをさ御いらへもなければ、うち出で聞こえてけるを、いかに思すにかと、 つつましく思しけり、とぞ。
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とおっしゃって、ろくにお返事もないので、お耳に入れてしまったことを、どのように考えていらっしゃるのかと、きまり悪くお思いであった、とか。
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と院は言っておいでになって、あの不思議な問題にはあまり触れようとあそばさないのを見て、大将は自分の言い出したということがお気に入らないのではないかと、きまり悪く思ったのである。
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to notamahi te, wosa-wosa ohom-irahe mo nakere ba, uti-ide kikoye te keru wo, ikani obosu ni ka to, tutumasiku obosi keri, to zo.
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Last updated 9/4/2003 渋谷栄一校訂(C)(ver.1-2-3) Last updated 1/18/2002 渋谷栄一注釈(ver.1-1-2) |
Last updated 1/18/2002 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2) |
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Last updated 10/4/2002 Written in Japanese roman letters by Eiichi Shibuya (C) (ver.1-3-2)
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Picture "Eiri Genji Monogatari"(1650 1st edition)
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