24 胡蝶(大島本)


KOTEHU


光る源氏の太政大臣時代
三十六歳の春三月から四月の物語



Tale of Hikaru-Genji's Daijo-Daijin era, from March to April at the age of 36

2
第二章 玉鬘の物語 初夏の六条院に求婚者たち多く集まる


2  Tale of Tamakazura  Many men come to Rokujo-in to propose to Tamakazura in summer

2.1
第一段 玉鬘に恋人多く集まる


2-1  There are many men of proposal marriage to Tamakazura

2.1.1   西の対の御方は、かの踏歌の折の御対面の後は、 こなたにも聞こえ交はしたまふ深き御心もちゐや、浅くもいかにもあらむ、けしきいと労あり、なつかしき心ばへと見えて、人の心隔つべくもものしたまはぬ人ざまなれば、いづ方にも皆心寄せきこえたまへり。
 西の対の御方は、あの踏歌の時のご対面以後は、こちらともお手紙を取り交わしなさる。深いお心用意という点では、浅いとかどうかという欠点もあるかも知れないが、態度がとてもしっかりしていて、親しみやすい性格に見えて、気のおけるようなところもおありでない性格の方なので、どの御方におかれても皆好意をお寄せ申し上げていらっしゃる。
  Nisinotai-no-Ohomkata ha, kano tahuka no wori no ohom-taimen no noti ha, konata ni mo kikoye-kahasi tamahu. Hukaki mi-kokoro-motiwi ya, asaku mo ikani mo ara m, kesiki ito rau ari, natukasiki kokorobahe to miye te, hito no kokoro hedatu beku mo monosi tamaha nu hito-zama nare ba, idukata ni mo mina kokoro-yose kikoye tamahe ri.
2.1.2  聞こえたまふ人いとあまたものしたまふ。されど、大臣、おぼろけに思し定むべくもあらず、 わが御心にも、すくよかに親がり果つまじき御心や添ふらむ、「 父大臣にも知らせやしてまし」など、思し寄る折々もあり。
 言い寄るお方も大勢いらっしゃる。けれども、大臣は、簡単にはお決めになれそうにもなく、ご自身でもちゃんと父親らしく通すことができないようなお気持ちもあるのだろうか、「実の父大臣にも知らせてしまおうかしら」などと、お考えになる時々もある。
  Kikoye tamahu hito ito amata monosi tamahu. Sare do, Otodo, oboroke ni obosi-sadamu beku mo ara zu, waga mi-kokoro ni mo, sukuyoka ni oya-gari hatu maziki mi-kokoro ya sohu ram, "Titi-Otodo ni mo sirase ya si te masi?" nado, obosi-yoru wori-wori mo ari.
2.1.3  殿の中将は、すこし気近く、 御簾のもとなどにも寄りて御応へみづからなどするも、女はつつましう思せど、 さるべきほどと 人びとも知りきこえたれば、中将はすくすくしくて思ひも寄らず。
 殿の中将は、少しお側近く、御簾の側などにも寄って、お返事をご自身でなさったりするのを、女は恥ずかしくお思いになるが、しかるべきお間柄と女房たちも存じ上げているので、中将はきまじめで思いもかけない。
  Tono no Tyuuzyau ha, sukosi kedikaku, mi-su no moto nado ni mo yori te, ohom-irahe midukara nado suru mo, Womna ha tutumasiu obose do, saru-beki hodo to hito-bito mo siri kikoye tare ba, Tyuuzyau ha suku-sukusiku te omohi mo yora zu.
2.1.4  内の大殿の君たちは、この君に引かれて、よろづにけしきばみ、わびありくを、 その方のあはれにはあらで、下に心苦しう、「 まことの親にさも知られたてまつりにしがな」と、人知れぬ心にかけたまへれど、 さやうにも漏らしきこえたまはず、ひとへにうちとけ頼みきこえたまふ心むけなど、らうたげに若やかなり。 似るとはなけれど、なほ母君のけはひにいとよくおぼえてこれはかどめいたるところぞ添ひたる
 内の大殿の公達は、この中将の君にくっついて、何かと意中をほのめかし、切ない思いにうろうろするが、そうした恋心の気持ちでなく、内心つらく、「実の親に子供だと知って戴きたいものだ」と、人知れず思い続けていらっしゃるが、そのようにはちょっとでもお申し上げにならず、ひたすらご信頼申し上げていらっしゃる心づかいなど、かわいらしく若々しい。似ているというのではないが、やはり母君の感じにとてもよく似ていて、こちらは才気が加わっていた。
  Uti-no-Ohoidono no Kimi-tati ha, kono Kimi ni hika re te, yorodu ni kesikibami, wabi ariku wo, sono kata no ahare ni ha ara de, sita ni kokoro-gurusiu, "Makoto no oya ni sa mo sira re tatematuri ni si gana!" to, hito sire nu kokoro ni kake tamahe re do, sayau ni mo morasi kikoye tamaha zu, hitohe ni utitoke tanomi kikoye tamahu kokoro-muke nado, rautage ni wakayaka nari. Niru to ha nakere do, naho Haha-Gimi no kehahi ni ito yoku oboye te, kore ha kado-mei taru tokoro zo sohi taru.
注釈76西の対の御方は玉鬘をさす。2.1.1
注釈77こなたにも聞こえ交はしたまふ紫の上をさす。格助詞「も」類例の意は、そもそもの訪問が明石姫君を訪ねたものだから、「こなたにも」という副次的な表現になっている。2.1.1
注釈78深き御心もちゐや「や」間投助詞、詠嘆の意。2.1.1
注釈79わが御心にもすくよかに親がり果つまじき御心や添ふらむ語り手の挿入句。源氏の心中を推測。係助詞「や」疑問、推量の助動詞「らむ」視界外推量、連体形で結ぶ。2.1.2
注釈80父大臣にも知らせやしてまし源氏の心中。「て」完了の助動詞、確述の意。〜してしまおう、という強調のニュアンスが加わる。「まし」仮想の助動詞、躊躇ためらいの気持ちを表す。2.1.2
注釈81御簾のもとなどにも寄りて主語は夕霧。接続助詞「て」原因理由を表す。下文は主語が変わる。2.1.3
注釈82御応へみづからなどするも主語は玉鬘。2.1.3
注釈83さるべきほどと『完訳』は「親しくて当然な姉弟の仲と」と注す。2.1.3
注釈84人びとも知りきこえたれば女房たち。姉弟の関係と思っている。2.1.3
注釈85その方のあはれにはあらで『集成』は「色めいた気持からではなく」。『完訳』は「女君は、そうした色恋沙汰のせつなさではなく」と訳す。2.1.4
注釈86まことの親にさも知られたてまつりにしがな玉鬘の心中。「に」完了の助動詞。「がな」終助詞、願望の意を表す。2.1.4
注釈87さやうにも漏らしきこえたまはず玉鬘が源氏に。2.1.4
注釈88似るとはなけれどなほ母君のけはひにいとよくおぼえて玉鬘と母夕顔との印象比較。雰囲気や感じがどことなく似ている。2.1.4
注釈89これはかどめいたるところぞ添ひたる『集成』は「母君になかった才気のはたらくところがある」と注す。2.1.4
2.2
第二段 玉鬘へ求婚者たちの恋文


2-2  Love letters rush to Tamakazura

2.2.1   更衣の今めかしう改まれるころほひ、空のけしきなどさへ、あやしうそこはかとなくをかしきをのどやかにおはしませば、よろづの御遊びにて過ぐしたまふに、 対の御方に、人びとの御文しげくなりゆくを、「思ひしこと」とをかしう思いて、ともすれば渡りたまひつつ御覧じ、さるべきには御返りそそのかしきこえたまひなどするを、 うちとけず苦しいことに思いたり
 衣更のはなやかに改まったころ、空の様子などまでが、不思議とどことなく趣があって、のんびりとしていらっしゃるので、あれこれの音楽のお遊びを催してお過ごしになっていると、対の御方に、人々の懸想文が多くなって行くのを、「思っていた通りだ」と面白くお思いになって、何かというとお越しになっては御覧になって、しかるべき相手にはお返事をお勧め申し上げなさったりなどするのを、気づまりなつらいこととお思いになっている。
  Koromogahe no imamekasiu aratamare ru korohohi, sora no kesiki nado sahe, ayasiu sokohaka-to-naku wokasiki wo, nodoyaka ni ohasimase ba, yorodu no ohom-asobi ni te sugusi tamahu ni, Tai-no-Ohomkata ni, hito-bito no ohom-humi sigeku nari-yuku wo, "Omohi si koto." to wokasiu oboi te, tomosure ba, watari tamahi tutu go-ran-zi, saru-beki ni ha ohom-kaheri sosonokasi kikoye tamahi nado suru wo, utitoke zu kurusii koto ni oboi tari.
2.2.2   兵部卿宮の、ほどなく焦られがましきわびごとどもを書き集めたまへる 御文を御覧じつけて、こまやかに笑ひたまふ。
 兵部卿宮が、まだ間もないのに恋い焦がれているような怨み言を書き綴っていらっしゃるお手紙をお見つけになって、にこやかにお笑いになる。
  Hyaubukyau-no-Miya no, hodo naku ira re gamasiki wabi-goto-domo wo kaki-atume tamahe ru ohom-humi wo go-ran-zi tuke te, komayaka ni warahi tamahu.
2.2.3  「 はやうより隔つることなう、あまたの親王たちの御中に、この君をなむ、かたみに取り分きて 思ひしに、ただ かやうの筋のことなむ、いみじう隔て思うたまひて やみにしを、世の末に、かく好きたまへる心ばへを見るが、をかしうもあはれにもおぼゆるかな。なほ、御返りなど聞こえたまへ。すこしもゆゑあらむ女の、かの親王よりほかに、また言の葉を交はすべき人こそ世におぼえね。いとけしきある人の御さまぞや」
 「子供のころから分け隔てなく、大勢の親王たちの中で、この君とは、特に互いに親密に思ってきたのだが、ただこのような恋愛の事だけは、ひどく隠し通してきてしまったのだが、この年になって、このような風流な心を見るのが、面白くもあり感に耐えないことでもあるよ。やはり、お返事など差し上げなさい。少しでもわきまえのあるような女性で、あの親王以外に、また歌のやりとりのできる人がいるとは思えません。とても優雅なところのあるお人柄ですよ」
  "Hayau yori hedaturu koto nau, amata no Miko-tati no ohom-naka ni, kono Kimi wo nam, katamini tori-waki te omohi si ni, tada kayau no sudi no koto nam, imiziu hedate omou tamahi te yami ni si wo, yo no suwe ni, kaku suki tamahe ru kokorobahe wo miru ga, wokasiu mo ahare ni mo oboyuru kana! Naho, ohom-kaheri nado kikoye tamahe. Sukosi mo yuwe ara m womna no, kano Miko yori hoka ni, mata kotonoha wo kahasu beki hito koso yo ni oboye ne. Ito kesiki aru hito no ohom-sama zo ya!"
2.2.4  と、若き人はめでたまひぬべく聞こえ知らせたまへど、つつましくのみ思いたり。
 と、若い女性は夢中になってしまいそうにお聞かせになるが、恥ずかしがってばかりいらっしゃった。
  to, wakaki hito ha mede tamahi nu beku kikoye sira se tamahe do, tutumasiku nomi oboi tari.
2.2.5   右大将の、いとまめやかに、ことことしきさましたる人の、「 恋の山には孔子の倒ふれ」まねびつべきけしきに愁へたるも、さる方にをかしと、皆見比べたまふ中に、 唐の縹の紙の、いとなつかしう、しみ深う匂へるを、いと細く小さく結びたるあり
 右大将で、たいそう実直で、ものものしい態度をした人が、「恋の山路では孔子も転ぶ」の真似でもしそうな様子に嘆願しているのも、そのような人の恋として面白いと、全部をご比較なさる中で、唐の縹の紙で、とてもやさしく、深くしみ込んで匂っているのを、とても細く小さく結んだのがある。
  U-Daisyau no, ito mameyaka ni koto-kotosiki sama si taru hito no, "Kohi no yama ni ha Kuzi no tahure" manebi tu beki kesiki ni urehe taru mo, saru kata ni wokasi to, mina mi-kurabe tamahu naka ni, kara no hanada no kami no, ito natukasiu, simi hukau nihohe ru wo, ito hosoku tihisaku musubi taru ari.
2.2.6  「 これは、いかなれば、かく結ぼほれたるにか
 「これは、どういう理由で、このように結んだままなのですか」
  "Kore ha, ika nare ba, kaku musubohore taru ni ka?"
2.2.7  とて、引き開けたまへり。 いとをしうて、
 と言って、お開きになった。筆跡はとても見事で、
  tote, hiki-ake tamahe ri. Te ito wokasiu te,
2.2.8  「 思ふとも君は知らじなわきかへり
 「こんなに恋い焦がれていてもあなたはご存知ないでしょうね
    "Omohu tomo Kimi ha sira zi na waki-kaheri
2.2.9   岩漏る水に色し見えねば
  湧きかえって岩間から溢れる水には色がありませんから
    iha moru midu ni iro si miye ne ba
2.2.10  書きざま今めかしうそぼれたり。
 書き方も当世風でしゃれていた。
  Kaki-zama imamekasiu sobore tari.
2.2.11  「 これはいかなるぞ
 「これはどうした文なのですか」
  "Kore ha ika naru zo?"
2.2.12  と問ひきこえたまへど、はかばかしうも聞こえたまはず。
 とお尋ねになったが、はっきりとはお答えにならない。
  to tohi kikoye tamahe do, haka-bakasiu mo kikoye tamaha zu.
注釈90更衣の今めかしう改まれるころほひ空のけしきなどさへあやしうそこはかとなくをかしきを季節は四月、夏に移る。「をかしきを」の接続助詞、順接の意。2.2.1
注釈91のどやかにおはしませば主語は源氏。太政大臣という特に要務もない官職にいる。2.2.1
注釈92対の御方に人びとの御文しげくなりゆくを玉鬘に懸想文が多く寄せられる。「を」格助詞、目的格を表す。2.2.1
注釈93うちとけず苦しいことに思いたり主語は玉鬘。2.2.1
注釈94兵部卿宮の格助詞「の」は主格を表し、「書き集めたまへる」に係る。連体形で「御文」を修飾し、「御覧じ」の目的となる複文構造。2.2.2
注釈95御文を御覧じつけて主語は源氏。2.2.2
注釈96はやうより以下「人の御さまぞや」まで、源氏の詞。2.2.3
注釈97思ひしに接続助詞「に」逆接の意。2.2.3
注釈98かやうの筋のことなむ『集成』は「恋の道のことにかけては」。『完訳』は「ただこうした向きのことに限っては」と訳す。2.2.3
注釈99やみにしを「に」完了の助動詞。「し」過去の助動詞。「を」接続助詞、逆接の意。2.2.3
注釈100右大将のいとまめやかにことことしきさましたる人の鬚黒右大将、ここが初出。春宮の母である承香殿女御の兄で、将来の有力者。2.2.5
注釈101恋の山には孔子の倒ふれ「孔子の倒れ」は当時の諺。孔子ほどの聖人も恋の道では失敗するという意。「世俗諺文」「今昔物語集」(巻十-十五)に見える。2.2.5
注釈102唐の縹の紙のいとなつかしうしみ深う匂へるをいと細く小さく結びたるあり恋文。柏木からのもの。2.2.5
注釈103これはいかなればかく結ぼほれたるにか源氏の詞。玉鬘は柏木からの恋文なので開かずにいた。2.2.6
注釈104思ふとも君は知らじなわきかへり岩漏る水に色し見えねば柏木から玉鬘への贈歌。2.2.8
注釈105これはいかなるぞ源氏の詞。2.2.11
校訂6 苦しい 苦しい--くるしいゝ(ゝ/$<朱>) 2.2.1
校訂7 手--(/+て) 2.2.7
2.3
第三段 源氏、玉鬘の女房に教訓す


2-3  Genji advices Ukon, a servant of Tamakazura

2.3.1  右近を召し出でて、
 右近を呼び出して、
  Ukon wo mesi-ide te,
2.3.2  「 かやうに訪づれきこえむ人をば、人選りして、応へなどはせさせよ。 好き好きしうあざれがましき今やうの人の、便ないことし出でなどする、男の咎にしもあらぬことなり。
 「このように手紙を差し上げる方を、よく人選して、返事などさせなさい。浮気で軽薄な新しがりやな女が、不都合なことをしでかすのは、男の罪とも言えないのだ。
  "Kayau ni otodure kikoye m hito wo ba, hito-eri si te, irahe nado ha se sase yo. Suki-zukisiu azaregamasiki imayau no hito no, bin-nai koto si-ide nado suru, wonoko no toga ni simo ara nu koto nari.
2.3.3  我にて思ひしにも、あな情けな、恨めしうもと、 その折にこそ、無心なるにや、もしはめざましかるべき際は、けやけうなどもおぼえけれ、わざと深からで、花蝶につけたる 便りごとは心ねたうもてないたる、なかなか心立つやうにもあり。また、さて 忘れぬるは何の咎かはあらむ
 自分の経験から言っても、ああ何と薄情な、恨めしいと、その時は、情趣を解さない女なのか、もしくは身の程をわきまえない生意気な女だと思ったが、特に深い思いではなく、花や蝶に寄せての便りには、男を悔しがらせるように返事をしないのは、かえって熱心にさせるものです。また、それで男の方がそのまま忘れてしまうのは、女に何の罪がありましょうか。
  Ware ni te omohi si ni mo, ana nasake na, uramesiu mo to, sono wori ni koso, muzin naru ni ya, mosi ha mezamasikaru beki kiha ha, keyakeu nado mo oboye kere, wazato hukakara de, hana tehu ni tuke taru tayori goto ha, kokoro-netau motenai taru, naka-naka kokoro-tatu yau ni mo ari. Mata, sate wasure nuru ha, nani no toga ka ha ara m.
2.3.4  ものの便りばかりの なほざりごとに、口疾う心得たるも、さらでありぬべかりける、後の難とありぬべきわざなり。すべて、 女のものづつみせず、心のままに、もののあはれも知り顔つくり、をかしきことをも見知らむなむ、その積もりあぢきなかるべきを、宮、大将は、 おほなおほななほざりごとをうち出でたまふべきにもあらず、またあまりもののほど知らぬやうならむも、 御ありさまに違へり
 何かの折にふと思いついたようないいかげんな恋文に、すばやく返事をするものと心得ているのも、そうしなくてもよいことで、後々に難を招く種となるものです。総じて、女が遠慮せず、気持ちのままに、ものの情趣を分かったような顔をして、興あることを知っているというのも、その結果よからぬことに終わるものですが、宮や、大将は、見境なくいいかげんなことをおっしゃるような方ではないし、また、あまり情を解さないようなのも、あなたに相応しくないことです。
  Mono no tayori bakari no nahozari-goto ni, kuti-tou kokoro-e taru mo, sara de ari nu bekari keru, noti no nan to ari nu beki waza nari. Subete, womna no mono-dutumi se zu, kokoro no mama ni, mono no ahare mo siri-gaho tukuri, wokasiki koto wo mo mi-sira m nam, sono tumori adikinakaru beki wo, Miya, Daisyau ha, ohona-ohona nahozari-goto wo uti-ide tamahu beki ni mo ara zu, mata amari mono no hodo sira nu yau nara m mo, ohom-arisama ni tagahe ri.
2.3.5  その際より下は、心ざしのおもむきに 従ひて、あはれをも分きたまへ。労をも数へたまへ」
 この方々より下の人には、相手の熱心さの度合に応じて、愛情のほどを判断しなさい。熱意のほどをも考えなさい」
  Sono kiha yori simo ha, kokorozasi no omomuki ni sitagahi te, ahare wo mo waki tamahe. Rau wo mo kazohe tamahe."
2.3.6  など聞こえたまへば、 君はうち背きておはする、側目いとをかしげなり。撫子の細長に、 このころの花の色なる御小袿、あはひ気近う今めきて、もてなしなども、 さはいへど、田舎びたまへりし名残こそ、ただありに、おほどかなる方にのみは見えたまひけれ、 人のありさまをも見知りたまふままに 、いとさまよう、なよびかに、化粧なども、心してもてつけたまへれば、いとど飽かぬところなく、はなやかにうつくしげなり。他人と見なさむは、 いと口惜しかべう思さる
 などと申し上げなさるので、姫君は横を向いていらっしゃる、その横顔がとても美しい。撫子の細長に、この季節の花の色の御小袿、色合いが親しみやすく現代的で、物腰などもそうはいっても、田舎くさいところが残っていたころは、ただ素朴で、おっとりとしたふうにばかりお見えであったが、御方々の有様を見てお分かりになっていくにつれて、とても姿つきもよく、しとやかに、化粧なども気をつけてなさっているので、ますます足らないところもなく、はなやかでかわいらしげである。他人の妻とするのは、まことに残念に思わずにはいらっしゃれない。
  nado kikoye tamahe ba, Kimi ha uti-somuki te ohasuru, soba-me ito wokasige nari. Nadesiko no hosonaga ni, kono-koro no hana no iro naru ohom-koutiki, ahahi kedikau imameki te, motenasi nado mo, sa ha ihe do, winakabi tamahe ri si nagori koso, tada-ari ni, ohodoka naru kata ni nomi ha miye tamahi kere, hito no arisama wo mo mi-siri tamahu mama ni, ito sama you, nayobika ni, kesau nado mo, kokoro si te mote-tuke tamahe re ba, itodo aka nu tokoro naku, hanayaka ni utukusige nari. Koto-bito to mi-nasa m ha, ito kutiwosika' beu obosa ru.
注釈106かやうに訪づれきこえむ人を以下「労をも数へたまへ」まで、源氏の詞。2.3.2
注釈107好き好きしうあざれがましき今やうの人の便ないことし出でなどする『集成』は「浮気っぽく遊び半分な気持の近頃の若い女が不都合なことをしでかしたりするのは」。『完訳』「色めかしく浮ついている当世の新し好きな女が不都合をしでかしたりなどするのは」と訳す。2.3.2
注釈108その折にこそ係助詞「こそ」は「おぼえけれ」に係る。逆接用法。2.3.3
注釈109便りごとは便りに対しては、の意。2.3.3
注釈110心ねたうもてないたる『集成』は「男をくやしがらせるように返事をしないでおくのは」。『完訳』は「返事をせず先方にいまいましく思わせたりすると」と訳す。2.3.3
注釈111忘れぬるは主語は男。2.3.3
注釈112何の咎かはあらむ反語表現。女の側に落度はない。2.3.3
注釈113なほざりごとに恋文をいう。2.3.4
注釈114女のものづつみせず心のままに訓戒。女が慎みを忘れ気持ちのままに。2.3.4
注釈115おほなおほな見境もなく、の意。2.3.4
注釈116御ありさまに違へり『集成』は「玉鬘の身分、年齢に似つかわしくない、の意」と注す。2.3.4
注釈117君はうち背きておはする側目いとをかしげなり「君は」は「おはする」に係る。「おはする」の下は読点、以上が主語となり、「いとをかしげなり」が述語となる複文構造。2.3.6
注釈118このころの花の色前に衣更とあった。四月の花は卯の花。すなわち卯花襲の小袿。2.3.6
注釈119さはいへど田舎びたまへりし名残こそ係助詞「こそ」は「見えたまひけれ」に係る。逆接用法。2.3.6
注釈120人のありさまをも見知りたまふままに六条院の女性の様子をさす。2.3.6
注釈121いと口惜しかべう思さる「る」自発の助動詞。たいそう残念に思わずにはいらっしゃれない、の意。2.3.6
校訂8 従ひて 従ひて--したかひてを(を/#<朱>) 2.3.5
校訂9 ありさまをも ありさまをも-ありさまを(を/+も<朱>) 2.3.6
2.4
第四段 右近の感想


2-4  Ukon thinks Genji unbecoming to her stepfather

2.4.1  右近も、うち笑みつつ見たてまつりて、「 親と聞こえむには、似げなう若くおはしますめり。 さし並びたまへらむはしも、あはひめでたしかし」と、思ひゐたり。
 右近も、ほほ笑みながら拝見して、「親と申し上げるには、似合わない若くていらっしゃるようだ。ご夫婦でいらっしゃったほうが、お似合いで素晴しろう」と、思っていた。
  Ukon mo, uti-wemi tutu mi tatematuri te, "Oya to kikoye m ni ha, nigenau wakaku ohasimasu meri. Sasi-narabi tamahe ra m ha simo, ahahi medetasi kasi." to, omohi-wi tari.
2.4.2  「 さらに人の御消息などは、聞こえ伝ふることはべらず。先々も 知ろしめし御覧じたる三つ、四つは、引き返し、はしたなめきこえむもいかがとて、御文ばかり 取り入れなどしはべるめれど、御返りは、さらに。 聞こえさせたまふ折ばかりなむ。それをだに、 苦しいことに思いたる
 「けっして殿方のお手紙などは、お取り次ぎ申したことはございません。以前からご存知で御覧になった三、四通の手紙は、突き返して、失礼申し上げてもどうかと思って、お手紙だけは受け取ったりなど致しておりますようですが、お返事は一向に。お勧めあそばす時だけでございます。それだけでさえ、つらいことに思っていらっしゃいます」
  "Sarani hito no ohom-seusoko nado ha, kikoye tutahuru koto habera zu. Saki-zaki mo sirosimesi go-ran-zi taru mi-tu, yo-tu ha, hiki-kahesi, hasitaname kikoye m mo ikaga tote, ohom-humi bakari tori-ire nado si haberu mere do, ohom-kaheri ha, sarani. Kikoye sase tamahu wori bakari nam. Sore wo dani, kurusii koto ni oboi taru."
2.4.3  と聞こゆ。
 と申し上げる。
  to kikoyu.
2.4.4  「 さて、この若やかに結ぼほれたるは誰がぞ。いといたう書いたるけしきかな」
 「ところで、この若々しく結んであるのは誰のだ。たいそう綿々と書いてあるようだな」
  "Sate, kono wakayaka ni musubohore taru ha taga zo? Ito itau kai taru kesiki kana!"
2.4.5  と、ほほ笑みて御覧ずれば、
 と、にっこりして御覧になると、
  to, hohowemi te go-ran-zure ba,
2.4.6  「 かれは、執念うとどめてまかりにけるにこそ。内の大殿の中将の、このさぶらふ みるこをぞ、もとより見知りたまへりける、伝へにてはべりける。 また見入るる人もはべらざりしにこそ
 「あれは、しつこく言って置いて帰ったものです。内の大殿の中将が、ここに仕えているみるこを、以前からご存知だった、その伝てでことずかったのでございます。また他には目を止めるような人はございませんでした」
  "Kare ha, sihuneu todome te makari ni keru ni koso. Uti-no-Ohoidono no Tyuuzyau no, kono saburahu Miruko wo zo, motoyori mi-siri tamahe ri keru, tutahe nite haberi keru. Mata mi-iruru hito mo habera zari si ni koso."
2.4.7  と聞こゆれば、
 と申し上げると、
  to kikoyure ba,
2.4.8  「 いとらうたきことかな。下臈なりとも、かの主たちをば、 いかがいとさははしたなめむ。公卿といへど、この人のおぼえに、かならずしも並ぶまじきこそ多かれ。さるなかにも、いとしづまりたる人なり。 おのづから思ひあはする世もこそあれ。掲焉にはあらでこそ、言ひ紛らはさめ。見所ある文書きかな」
 「たいそうかわいらしいことだな。身分が低くとも、あの人たちを、どうしてそのように失礼な目に遭わせることができようか。公卿といっても、この人の声望に、必ずしも匹敵するとは限らない人が多いのだ。そうした人の中でも、たいそう沈着な人である。いつかは分かる時が来よう。はっきり言わずに、ごまかしておこう。見事な手紙であるよ」
  "Ito rautaki koto kana! Gerau nari tomo, kano nusi-tati wo ba, ikaga ito sa ha hasitaname m? Kugyau to ihe do, kono hito no oboye ni, kanarazu-simo narabu maziki koso ohokare. Saru naka ni mo, ito sidumari taru hito nari. Onodukara omohi ahasuru yo mo koso are. Ketien ni ha ara de koso, ihi-magirahasa me. Mi-dokoro aru humi-gaki kana!"
2.4.9  など、とみにもうち置きたまはず。
 などと、すぐには下にお置きにならない。
  nado, tomi ni mo uti-oki tamaha zu.
注釈122親と聞こえむには以下「あはひめでたしかし」まで、右近の心中。2.4.1
注釈123さし並びたまへらむはしも『集成』は「ご夫婦としていたほうが」。『完訳』は「ご夫婦としてお並びになったら」と訳す。「ら」完了の助動詞、「む」推量の助動詞、仮定の意、「しも」連語(副助詞+係助詞)強調の意。--になったら、それが、--だ、の意。2.4.1
注釈124さらに人の以下「苦しいことに思いたる」まで、右近の詞。2.4.2
注釈125知ろしめし御覧じたる主語は源氏。2.4.2
注釈126取り入れなどしはべるめれど推量の助動詞「めり」主観的推量。他の女房がしているようだ、という意。2.4.2
注釈127聞こえさせたまふ折ばかりなむ主語は源氏。2.4.2
注釈128苦しいことに思いたる主語は玉鬘。連体中止法、余意余情表現。2.4.2
注釈129さてこの以下「けしきかな」まで、源氏の詞。2.4.4
注釈130かれは執念う以下「はべらざりしにこそ」まで、右近の詞。2.4.6
注釈131また見入るる人もはべらざりしにこそ『集成』は「ほかに気をつける人もいなかったのでございましょう。玉鬘の前に出すまでに、適当に処置する女房がいなかった、女房だったらこんなことはしないのに、という含み」。『完訳』は「他には眼をとめる人もいない」と注す。2.4.6
注釈132いとらうたきことかな以下「見所ある文書きかな」まで、源氏の詞。2.4.8
注釈133いかがいとさははしたなめむ「いかが--む」反語表現。2.4.8
注釈134おのづから思ひあはする世もこそあれ自然といつかは玉鬘の素姓を知ることがあろう、という意。2.4.8
校訂10 みるこをぞ みるこをぞ--見てこそを(てこそを/$るこをそ<朱>) 2.4.6
2.5
第五段 源氏、求婚者たちを批評


2-5  Genji criticizes men of proposal marriage to Tamakazura

2.5.1  「 かう何やかやと聞こゆるをも、 思すところやあらむと、ややましきを、 かの大臣に知られたてまつりたまはむことも、まだ若々しう何となきほどに、ここら年経たまへる御仲にさし出でたまはむことは、いかがと思ひめぐらしはべる。 なほ世の人のあめる方に定まりてこそは、人びとしう、 さるべきついでもものしたまはめと思ふを。
 「このようにいろいろとご注意申し上げるのも、ご不快にお思いになることもあろうかと、気がかりですが、あの大臣に知っていただかれなさることも、まだ世間知らずで何の後楯もないままに、長年離れていた兄弟のお仲間入りをなさることは、どうかといろいろと思案しているのです。やはり世間の人が落ち着くようなところに落ち着けば、人並みの境遇で、しかるべき機会もおありだろうと思っていますよ。
  "Kau naniya-kaya to kikoyuru wo mo, obosu tokoro ya ara m to, yayamasiki wo, kano Otodo ni sira re tatematuri tamaha m koto mo, mada waka-wakasiu nani to naki hodo ni, kokora tosi he tamahe ru ohom-naka ni sasi-ide tamaha m koto ha, ikaga to omohi-megurasi haberu. Naho yo no hito no a' meru kata ni sadamari te koso ha, hito-bitosiu, saru-beki tuide mo monosi tamaha me to omohu wo.
2.5.2   宮は、独りものしたまふやうなれど、人柄いといたうあだめいて、通ひたまふ所あまた聞こえ、召人とか、憎げなる名のりする人どもなむ、数あまた聞こゆる。
 宮は、独身でいらっしゃるようですが、人柄はたいそう浮気っぽくて、お通いになっている所が多いというし、召人とかいう憎らしそうな名の者が、数多くいるということです。
  Miya ha, hitori monosi tamahu yau nare do, hitogara ito itau adamei te, kayohi tamahu tokoro amata kikoye, mesiudo to ka, nikuge naru nanori suru hito-domo nam, kazu amata kikoyuru.
2.5.3   さやうならむことは憎げなうて見直いたまはむ人は、いとようなだらかにもて消ちてむ。 すこし心に癖ありては、人に飽かれぬべきことなむ、おのづから出で来ぬべきを、 その御心づかひなむあべき
 そのようなことは、憎く思わず大目に見過されるような人なら、とてもよく穏便にすますでしょう。少し心に嫉妬の癖があっては、夫に飽きられてしまうことが、やがて生じて来ましょうから、そのお心づかいが大切です。
  Sayau nara m koto ha, nikuge nau te mi-nahoi tamaha m hito ha, ito you nadaraka ni mote-keti te m. Sukosi kokoro ni kuse ari te ha, hito ni aka re nu beki koto nam, onodukara ide-ki nu beki wo, sono mi-kokoro-dukahi nam a' beki.
2.5.4   大将は、年経たる人の、いたうねび過ぎたるを、厭ひがてにと 求むなれど、それも 人びとわづらはしがるなり。さもあべいことなれば、さまざまになむ、人知れず思ひ定めかねはべる。
 大将は、長年連れ添った北の方が、ひどく年を取ったのに、嫌気がさしてと求婚しているということですが、それも回りの人々が面倒なことだと思っているようです。それも当然なことなので、それぞれに、人知れず思い定めかねております。
  Daisyau ha, tosi he taru hito no, itau nebi-sugi taru wo, itohi-gate ni to motomu nare do, sore mo hito-bito wadurahasi-garu nari. Samo a' bei koto nare ba, sama-zama ni nam, hito-sire-zu omohi sadame kane haberu.
2.5.5   かうざまのことは、親などにも、さはやかに、わが思ふさまとて、語り出でがたきことなれど、 さばかりの御齢にもあらず。今は、などか何ごとをも御心に分いたまはざらむ。まろを、 昔ざまになずらへて、母君と思ひないたまへ。御心に飽かざらむことは、 心苦しく
 このような問題は、親などにも、はっきりと、自分の考えはこうこうだといって、話し出しにくいことであるが、それ程のお年でもない。今は、何事でもご自分で判断がおできになれましょう。わたしを、亡くなった方と同様に思って、母君とお思いになって下さい。お気持に添わないことは、お気の毒で」
  Kau zama no koto ha, oya nado ni mo, sahayaka ni, waga omohu sama tote, katari-ide gataki koto nare do, sabakari no ohom-yohahi ni mo ara zu. Ima ha, nado ka nani-goto wo mo mi-kokoro ni wai tamaha zara m? Maro wo, mukasi-zama ni nazurahe te, haha-gimi to omohi-nai tamahe. Mi-kokoro ni aka zara m koto ha, kokoro-gurusiku."
2.5.6  など、いとまめやかにて聞こえたまへば、苦しうて、御いらへ聞こえむともおぼえたまはず。いと若々しきもうたておぼえて、
 などと、たいそう真面目にお申し上げになるので、困ってしまって、お返事申し上げようというお気持ちにもなれない。あまり子供っぽいのも愛嬌がないと思われて、
  nado, ito mameyaka ni te kikoye tamahe ba, kurusiu te, ohom-irahe kikoye m to mo oboye tamaha zu. Ito waka-wakasiki mo utate oboye te,
2.5.7  「 何ごとも思ひ知りはべらざりけるほどより、親などは見ぬものにならひはべりて、ともかくも思うたまへられずなむ」
 「何の分別もなかったころから、親などは知らない生活をしてまいりましたので、どのように思案してよいものか考えようがございません」
  "Nani-goto mo omohi-siri habera zari keru hodo yori, oya nado ha mi nu mono ni narahi haberi te, tomo-kaku mo omou tamahe rare zu nam."
2.5.8  と、聞こえたまふさまのいとおいらかなれば、げにと思いて、
 と、お答えなさる様子がとてもおおようなので、なるほどとお思いになって、
  to, kikoye tamahu sama no ito oiraka nare ba, geni to oboi te,
2.5.9  「 さらば世のたとひの、後の をそれと思いて、 おろかならぬ心ざしのほども、見あらはし果てたまひてむや」
 「それならば世間が俗にいう、後の養父をそれとお思いになって、並々ならぬ厚志のほどを、最後までお見届け下さいませんでしょうか」
  "Saraba yo no tatohi no, noti-no-oya wo sore to oboi te, oroka nara nu kokorozasi no hodo mo, mi-arahasi-hate tamahi te m ya?"
2.5.10  など、うち語らひたまふ。 思すさまのことはまばゆければ、えうち出でたまはず。けしきある言葉は時々混ぜたまへど、見知らぬさまなれば、すずろにうち嘆かれて渡りたまふ。
 などと、こまごまとお話になる。心の底にお思いになることは、きまりが悪いので、口にはお出しにならない。意味ありげな言葉は時々おっしゃるが、気づかない様子なので、わけもなく嘆息されてお帰りになる。
  nado, uti-katarahi tamahu. Obosu sama no koto ha, mabayukere ba, e uti-ide tamaha zu. Kesiki aru kotoba ha toki-doki maze tamahe do, mi-sira nu sama nare ba, suzuro ni uti-nageka re te watari tamahu.
注釈135かう何やかやと以下「心苦しく」まで、源氏の詞。2.5.1
注釈136思すところやあらむと主語は玉鬘。「思す」は不快に思う、意。2.5.1
注釈137かの大臣に知られたてまつりたまはむことも「られ」受身の助動詞。玉鬘が父の内大臣に。「たてまつり」受手尊敬の補助動詞、玉鬘に対する敬意。「たまふ」尊敬の補助動詞、玉鬘に対する敬意。「む」推量の助動詞、仮定の意。2.5.1
注釈138なほ世の人のあめる方に定まりて『集成』は「やはり、世間の人が落着くような方向に落着いてこそ。普通に結婚してこそ」。『完訳』は「玉鬘が高貴な人と結婚すれば内大臣も無視すまい、と説得」と注す。2.5.1
注釈139さるべきついでも父内大臣と対面するに適当な機会。2.5.1
注釈140宮は独りものしたまふやうなれど蛍兵部卿宮には、現在北の方はいないが、他の通い妻は大勢いる。一夫多妻制社会。2.5.2
注釈141さやうならむことは男の浮気をさす。2.5.3
注釈142憎げなうて見直いたまはむ人は嫉妬せずに夫の気持ちが元に戻るまで待てるような人。「帚木」巻の女性論、参照。2.5.3
注釈143すこし心に癖ありては嫉妬をさす。2.5.3
注釈144その御心づかひなむあべき係助詞「なむ」--「べき」係結び、強調のニュアンス。嫉妬せずに辛抱する心づかいが大切である、と強調する。2.5.3
注釈145大将は年経たる人のいたうねび過ぎたるを厭ひがてにと鬚黒大将は北の方がいるが、年老いたのを嫌っている。2.5.4
注釈146求むなれど「なれ」伝聞推定の助動詞。玉鬘に求婚する意。2.5.4
注釈147人びとわづらはしがるなり『集成』は「回りの者」。『完訳』は「北の方と縁ある人々」と注す。「なり」伝聞推定の助動詞。2.5.4
注釈148かうざまのこと結婚に関する話題。2.5.5
注釈149さばかりの御齢にもあらず玉鬘二十二歳、物事の判断できない年ではないという。2.5.5
注釈150昔ざまになずらへて亡くなった母君と同様に考えて、の意。2.5.5
注釈151心苦しく下に「思ひはべり」などの語句が省略。余意余情表現。2.5.5
注釈152何ごとも以下「思うたまへられずなむ」まで、玉鬘の詞。2.5.7
注釈153さらば世のたとひ以下「たまひてむや」まで、源氏の詞。2.5.9
注釈154おろかならぬ心ざし源氏の気持ちをいう。2.5.9
注釈155思すさまのことは『集成』は「わが物に思うご本心は」。『完訳』は「玉鬘への懸想心」と注す。2.5.10
注釈156まばゆければえうち出でたまはず主語は源氏。2.5.10
校訂11 親--(/+おや<朱>) 2.5.9
Last updated 8/15/2001
渋谷栄一校訂(C)(ver.1-2-2)
Last updated 8/15/2001
渋谷栄一注釈(ver.1-1-2)
Last updated 8/15/2001
渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)
Last updated 9/4/2002
Written in Japanese roman letters
by Eiichi Shibuya(C) (ver.1-3-2)
Picture "Eiri Genji Monogatari"(1650 1st edition)
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