04 夕顔(大島本)


YUHUGAHO


光る源氏の十七歳夏から立冬の日までの物語


Tale of Hikaru-Genji's Konoe-Chujo era from the summer to the first day in the winter at the age of 17

1
第一章 夕顔の物語 夏の物語


1  Tale of Yugao in the summer

1.1
第一段 源氏、五条の大弐乳母を見舞う


1-1  Genji calls on his foster-mother who lives in Go-jo

1.1.1   六条わたりの御忍び歩きのころ、内裏よりまかでたまふ 中宿に、 大弐の乳母のいたくわづらひて 尼になりにける、とぶらはむとて、 五条なる家尋ねておはしたり。
 六条辺りのお忍び通いのころ、内裏からご退出なさる休息所に、大弍の乳母がひどく病んで尼になっていたのを、見舞おうとして、五条にある家を尋ねていらっしゃった。
 源氏が六条に恋人を持っていたころ、御所からそこへ通う途中で、だいぶ重い病気をし尼になった大弐の乳母を訪ねようとして、五条辺のその家へ来た。
  Rokudeu watari no ohom-sinobiariki no koro, uti yori makade tamahu nakayadori ni, Daini-no-Menoto no itaku wadurahi te ama ni nari ni keru, toburaha m tote, Godeu naru ihe tadune te ohasi tari.
1.1.2   御車入るべき門は鎖したりければ、人して 惟光召させて待たせたまひけるほどむつかしげなる大路のさま見わたしたまへるに、この家のかたはらに、 桧垣といふもの新しうして、 上は半蔀四五間ばかり上げわたして簾などもいと白う 涼しげなるにをかしき額つきの透影、あまた 見えて覗く立ちさまよふらむ下つ方思ひやるに、 あながちに丈高き心地ぞするいかなる者の集へるならむと、やうかはりて思さる。
 お車が入るべき正門は施錠してあったので、供人に惟光を呼ばせて、お待ちあそばす間、むさ苦しげな大路の様子を見渡していらっしゃると、この家の隣に、桧垣という板垣を新しく作って、上方は半蔀を四、五間ほどずらりと吊り上げて、簾などもとても白く涼しそうなところに、美しい額つきをした簾の透き影が、たくさん見えてこちらを覗いている。立ち動き回っているらしい下半身を想像すると、やたらに背丈の高い感じがする。どのような者が集まっているのだろうと、一風変わった様子にお思いになる。
 乗ったままで車を入れる大門がしめてあったので、従者に呼び出させた乳母の息子の惟光の来るまで、源氏はりっぱでないその辺の町を車からながめていた。惟光の家の隣に、新しい檜垣を外囲いにして、建物の前のほうは上げ格子を四、五間ずっと上げ渡した高窓式になっていて、新しく白い簾を掛け、そこからは若いきれいな感じのする額を並べて、何人かの女が外をのぞいている家があった。高い窓に顔が当たっているその人たちは非常に背の高いもののように思われてならない。どんな身分の者の集まっている所だろう。風変わりな家だと源氏には思われた。
  Mi-kuruma iru beki kado ha sasi tari kere ba, hito site Koremitu mesa se te, mata se tamahi keru hodo, mutukasi-ge naru ohodi no sama wo mi-watasi tamahe ru ni, kono ihe no katahara ni, higaki to ihu mono atarasiu si te, kami ha hazitomi si, go-kem bakari age-watasi te, sudare nado mo ito sirou suzusige naru ni, wokasiki hitahi-tuki no suki-kage, amata miye te nozo ku. Tati-samayohu ram simo-tu-kata omoi-yaru ni, anagati ni take takaki kokoti zo suru. Ika naru mono no tudohe ru nara m to, yau kahari te obosa ru.
1.1.3   御車もいたくやつしたまへり前駆も追はせたまはず誰れとか知らむとうちとけたまひて、 すこしさし覗きたまへれば門は蔀のやうなる、押し上げたる、見入れのほどなく、ものはかなき住まひを、あはれに、「 何処かさして」と思ほしなせば、 玉の台も同じことなり
 お車もひどく地味になさり、先払いもおさせにならず、誰と分かろうかと気をお許しなさって、少し顔を出して御覧になっていると、門は蔀のようなのを押し上げてあって、その奥行きもなく、ささやかな住まいを、しみじみと、「どの家を終生の宿とできようか」とお考えになってみると、立派な御殿も同じことである。
 今日は車も簡素なのにして目だたせない用意がしてあって、前駆の者にも人払いの声を立てさせなかったから、源氏は自分のだれであるかに町の人も気はつくまいという気楽な心持ちで、その家を少し深くのぞこうとした。門の戸も蔀風になっていて上げられてある下から家の全部が見えるほどの簡単なものである。哀れに思ったが、ただ仮の世の相であるから宮も藁屋も同じことという歌が思われて、われわれの住居だって一所だとも思えた。
  Mi-kuruma mo itaku yatusi tamahe ri, saki mo oha se tamaha zu, tare to ka sira m to uti-toke tamahi te, sukosi sasi-nozoki tamahe re ba, kado ha sitomi no yau naru, osi-age taru, mi-ire no hodo naku, mono-hakanaki sumahi wo, ahare ni, "Iduko ka sasi te?" to omohosi-nase ba, tama no utena mo onazi koto nari.
1.1.4   切懸だつ物にいと青やかなる葛の心地よげに 這ひかかれるに、白き花ぞ、 おのれひとり笑みの眉開けたる
 切懸の板塀みたいな物に、とても青々とした蔓草が気持ちよさそうに這いまつわっているところに、白い花が、自分ひとり微笑んで咲いている。
 端隠しのような物に青々とした蔓草が勢いよくかかっていて、それの白い花だけがその辺で見る何よりもうれしそうな顔で笑っていた。
  Kirikake-datu mono ni, ito awoyaka naru kadura no kokoti-yoge ni hahi-kakare ru ni, siroki hana zo, onore hitori wemi no mayu hirake taru.
1.1.5  「 遠方人にもの申す
 「遠方の人にお尋ねする」
 そこに白く咲いているのは何の花かという歌を口ずさんでいると、
  "Oti-kata-bito ni mono mausu."
1.1.6  と 独りごちたまふを御隋身ついゐて
 と独り言をおっしゃると、御随身がひざまずいて、
 中将の源氏につけられた近衛の随身が車の前に膝をかがめて言った。
  to hitori-goti tamahu wo, mi-zuizin tui-wi te,
1.1.7  「 かの白く咲けるをなむ、夕顔と申しはべる。花の名は 人めきて、かうあやしき 垣根になむ咲きはべりける
 「あの白く咲いている花を、夕顔と申します。花の名は人並のようでいて、このような賤しい垣根に咲くのでございます」
 「あの白い花を夕顔と申します。人間のような名でございまして、こうした卑しい家の垣根に咲くものでございます」
  "Kano siroku sake ru wo nam, yuhugaho to mausi haberu. Hana no na ha hito-meki te, kau ayasiki kakine ni nam saki haberi keru."
1.1.8  と申す。 げにいと小家がちにむつかしげなるわたりの このもかのも、あやしくうちよろぼひて、むねむねしからぬ軒のつまなどに這ひまつはれたるを、
 と申し上げる。なるほどとても小さい家が多くて、むさ苦しそうな界隈で、この家もかの家も、見苦しくちょっと傾いて、頼りなさそうな軒の端などに這いまつわっているのを、
 その言葉どおりで、貧しげな小家がちのこの通りのあちら、こちら、あるものは倒れそうになった家の軒などにもこの花が咲いていた。
  to mausu. Geni ito koihe-gati ni, mutukasige naru watari no, konomo-kanomo, ayasiku uti-yorobohi te, mune-munesikara nu noki no tuma nado ni hahi-matuhare taru wo,
1.1.9  「 口惜しの花の契りや。一房折りて参れ
 「気の毒な花の運命よ。一房手折ってまいれ」
 「気の毒な運命の花だね。一枝折ってこい」
  "Kutiwosi no hana no tigiri ya! Hito-husa wori te mawire."
1.1.10  とのたまへば、この押し上げたる 門に入りて折る
 とおっしゃるので、この押し上げてある門から入って折る。
 と源氏が言うと、蔀風の門のある中へはいって随身は花を折った。
  to notamahe ba, kono osi-age taru kado ni iri te woru.
1.1.11   さすがに、されたる 遣戸口に、黄なる生絹の単袴、長く着なしたる 童のをかしげなる出で来て、 うち招く白き扇のいたうこがしたるを、
 そうは言うものの、しゃれた遣戸口に、黄色い生絹の単重袴を、長く着こなした女童で、かわいらしげな子が出て来て、ちょっと招く。白い扇でたいそう香を薫きしめたのを、
 ちょっとしゃれた作りになっている横戸の口に、黄色の生絹の袴を長めにはいた愛らしい童女が出て来て随身を招いて、白い扇を色のつくほど薫物で燻らしたのを渡した。
  Sasuga ni, sare taru yarido-guti ni, ki naru suzusi no hitohe-bakama, nagaku ki-nasi taru waraha no, wokasige naru ide-ki te, uti-maneku. Siroki ahugi no itau kogasi taru wo,
1.1.12  「 これに置きて参らせよ。枝も 情けなげなめる花を
 「これに載せて差し上げなさいね。枝も風情なさそうな花ですもの」
 「これへ載せておあげなさいまし。手で提げては不恰好な花ですもの」
  "Kore ni oki te mawirase yo. Eda mo nasake-nage na' meru hana wo."
1.1.13  とて 取らせたれば、門開けて 惟光朝臣出で来たるして、奉らす。
 と言って与えたところ、門を開けて惟光朝臣が出て来たのを取り次がせて、差し上げさせる。
  随身は、夕顔の花をちょうどこの時門をあけさせて出て来た惟光の手から源氏へ渡してもらった。
  tote torase tare ba, kado ake te Koremitu-no-Asom ide-ki taru site, tatematura su.
1.1.14  「 鍵を置きまどはしはべりていと不便なるわざなりや。もののあやめ見たまへ分くべき人もはべらぬわたりなれど、 らうがはしき大路に立ちおはしまして」とかしこまり申す。
 「鍵を置き忘れまして、大変にご迷惑をお掛けいたしました。どなた様と分別申し上げられる者もおりませぬ辺りですが、ごみどみした大路にお立ちあそばして」とお詫び申し上げる。
 「鍵の置き所がわかりませんでして、たいへん失礼をいたしました。よいも悪いも見分けられない人の住む界わいではございましても、見苦しい通りにお待たせいたしまして」
 と惟光は恐縮していた。
  "Kagi wo oki-madohasi haberi te, ito hubin naru waza nari ya! Mono no ayame mi tamahe waku beki hito mo habera nu watari nare do, raugahasiki ohodi ni tati ohasimasi te." to kasikomari mausu.
1.1.15   引き入れて、下りたまふ惟光が兄の阿闍梨、婿の三河守、娘など、渡り集ひたるほどに、かくおはしましたる喜びを、またなきことにかしこまる。
 車を引き入れて、お下りになる。惟光の兄の阿闍梨や、娘婿の三河守、娘などが、寄り集まっているところに、このようにお越しあそばされたお礼を、この上ないことと恐縮して申し上げる。
 車を引き入れさせて源氏の乳母の家へ下りた。惟光の兄の阿闍梨、乳母の婿の三河守、娘などが皆このごろはここに来ていて、こんなふうに源氏自身で見舞いに来てくれたことを非常にありがたがっていた。
  Hiki-ire te, ori tamahu. Koremitu ga ani no Azyari, muko no Mikaha-no-Kami, musume nado, watari tudohi taru hodo ni, kaku ohasimasi taru yorokobi wo, mata naki koto ni kasikomaru.
1.1.16   尼君も起き上がりて
 尼君も起き上がって、
 尼も起き上がっていた。
  Ama-Gimi mo oki-agari te,
1.1.17  「 惜しげなき身なれど捨てがたく思うたまへつることは、ただ、 かく御前にさぶらひ御覧ぜらるること変りはべりなむことを口惜しく思ひたまへ、たゆたひしかど、忌むことのしるしに よみがへりてなむ、かく渡りおはしますを、 見たまへはべりぬれば今なむ 阿弥陀仏の御光も、心清く 待たれはべるべき
 「惜しくもない身の上ですが、出家しがたく存じておりましたことは、ただ、このようにお目にかかり、御覧に入れる姿が変わってしまいますことを残念に存じて、ためらっておりましたが、受戒の効果があって生き返って、このようにお越しあそばされましたのを、お目にかかれましたので、今は、阿弥陀様のご来迎も、心残りなく待つことができましょう」
 「もう私は死んでもよいと見られる人間なんでございますが、少しこの世に未練を持っておりましたのはこうしてあなた様にお目にかかるということがあの世ではできませんからでございます。尼になりました功徳で病気が楽になりまして、こうしてあなた様の御前へも出られたのですから、もうこれで阿弥陀様のお迎えも快くお待ちすることができるでしょう」
  "Wosi-ge naki mi nare do, sute-gataku omou tamahe turu koto ha, tada, kaku o-mahe ni saburahi, go-ran-ze raruru koto no kahari haberi na m koto wo kutiwosiku omohi tamahe, tayutahi sika do, imu koto no sirusi ni yomigaheri te nam, kaku watari ohasimasu wo, mi tamahe haberi nure ba, ima nam Amidabutu no ohom-hikari mo kokoro-kiyoku mata re haberu beki."
1.1.18  など聞こえて、弱げに泣く。
 などと申し上げて、弱々しく泣く。
 などと言って弱々しく泣いた。
  nado kikoye te, yowage ni naku.
1.1.19  「 日ごろ、おこたりがたく ものせらるるを安からず嘆きわたりつるに、かく、世を離るるさまにものしたまへば、いとあはれに 口惜しうなむ。命長くて、 なほ位高くなど見なしたまへ。 さてこそ九品の上にも、障りなく生まれたまはめ。この世にすこし恨み残るは、悪ろきわざとなむ聞く」など、涙ぐみてのたまふ。
 「いく日も、思わしくなくおられるのを、案じて心痛めていましたが、このように、世を捨てた尼姿でいらっしゃると、まことに悲しく残念です。長生きをして、さらにわたしの位が高くなるのなども御覧下さい。そうしてから、九品浄土の最上位にも、差し障りなくお生まれ変わりなさいさい。この世に少しでも執着が残るのは、悪いことと聞いております」などと、涙ぐんでおっしゃる。
 「長い間恢復しないあなたの病気を心配しているうちに、こんなふうに尼になってしまわれたから残念です。長生きをして私の出世する時を見てください。そのあとで死ねば九品蓮台の最上位にだって生まれることができるでしょう。この世に少しでも飽き足りない心を残すのはよくないということだから」
 源氏は涙ぐんで言っていた。
  "Hi-goro, okotari-gataku monose raruru wo, yasukara zu nageki watari turu ni, kaku, yo wo hanaruru sama ni monosi tamahe ba, ito ahare ni kutiwosiu nam. Inoti nagaku te, naho kurawi takaku nado mi-nasi tamahe. Sate koso, kokono-sina no kami ni mo, sahari naku mumare tamaha me. Konoyo ni sukosi urami nokoru ha, waroki waza to nam kiku."nado, namidagumi te notamahu.
1.1.20   かたほなるをだに、乳母やうの思ふべき人は、あさましうまほに見なすものを、まして、 いと面立たしう、なづさひ仕うまつりけむ身も、いたはしうかたじけなく 思ほゆべかめれば、すずろに涙がちなり。
 不出来な子でさえも、乳母のようなかわいがるはずの人には、あきれるくらいに完全無欠に思い込むものを、まして、まことに光栄にも、親しくお世話申し上げたわが身も、大切にもったいなく思われるようなので、わけもなく涙に濡れるのである。
 欠点のある人でも、乳母というような関係でその人を愛している者には、それが非常にりっぱな完全なものに見えるのであるから、まして養君がこの世のだれよりもすぐれた源氏の君であっては、自身までも普通の者でないような誇りを覚えている彼女であったから、源氏からこんな言葉を聞いてはただうれし泣きをするばかりであった。
  Kataho naru wo dani, menoto yau no omohu beki hito ha, asamasiu maho ni mi-nasu mono wo, masite ito omodatasiu, nadusahi tukaumaturi kem mi mo, itahasiu katazikenaku omohoyu beka' mere ba, suzuro ni namidagati nari.
1.1.21   子どもは、いと見苦しと思ひて、「 背きぬる世の去りがたきやうに、みづからひそみ 御覧ぜられたまふ」と、つきしろひ目くはす。
 子供たちは、とてもみっともないと思って、「捨てたこの世に未練があるようで、ご自身から泣き顔をお目にかけていなさる」と言って、突き合い目配せし合う。
 息子や娘は母の態度を飽き足りない歯がゆいもののように思って、尼になっていながらこの世への未練をお見せするようなものである、俗縁のあった方に惜しんで泣いていただくのはともかくもだがというような意味を、肱を突いたり、目くばせをしたりして兄弟どうしで示し合っていた。
  Kodomo ha, ito migurusi to omohi te, "Somuki nuru yo no sari-gataki yau ni, midukara hisomi go-ran-ze rare tamahu." to, tuki-sirohi me-kuhasu.
1.1.22  君は、 いとあはれと思ほして
 源氏の君は、とてもしみじみと感じられて、
 源氏は乳母を憐んでいた。
  Kimi ha, ito ahare to omohosi te,
1.1.23  「 いはけなかりけるほどに思ふべき人びとのうち捨ててものしたまひにけるなごり、育む人あまた あるやうなりしかど、親しく思ひ睦ぶる筋は、 またなくなむ思ほえし。人となりて後は、 限りあれば朝夕にしもえ見たてまつらず、心のままに訪らひ参づることはなけれど、なほ久しう対面せぬ時は、心細くおぼゆるを、『 さらぬ別れはなくもがな』」
 「幼かったころに、かわいがってくれるはずの方々が亡くなってしまわれた後は、養育してくれる人々はたくさんいたようでしたが、親しく甘えられる人は、他にいなく思われました。成人して後は、きまりがあるので、朝に夕にというようにもお目にかかれず、思い通りにお訪ね申すことはなかったが、やはり久しくお会いしていない時は、心細く思われましたが、『避けられない別れなどはあってほしくないものだ』と思われます」
 「母や担母を早く失くした私のために、世話する役人などは多数にあっても、私の最も親しく思われた人はあなただったのだ。大人になってからは少年時代のように、いつもいっしょにいることができず、思い立つ時にすぐに訪ねて来るようなこともできないのですが、今でもまだあなたと長く逢わないでいると心細い気がするほどなんだから、生死の別れというものがなければよいと昔の人が言ったようなことを私も思う」
  "Ihakenakari keru hodo ni, omohu beki hito-bito no uti-sute te monosi tamahi ni keru nagori, hagukumu hito amata aru yau nari sika do, sitasiku omohi mutuburu sudi ha, mata naku nam omohoye si. Hito to nari te noti ha, kagiri are ba, asa-yuhu ni simo e mi tatematura zu, kokoro no mama ni toburahi mauduru koto ha nakere do, naho hisasiu taimen se nu toki ha, kokoro-bosoku oboyuru wo, 'Sara nu wakare ha naku mo gana.'"
1.1.24   となむ、こまやかに語らひたまひて、おし拭ひたまへる袖のにほひも、いと 所狭きまで薫り満ちたるに、 げに、よに思へば、おしなべたらぬ人の御宿世ぞかしと、尼君をもどかしと見つる子ども、皆うちしほたれけり。
 と、懇ろにお話なさって、お拭いになった袖の匂いも、とても辺り狭しと薫り満ちているので、なるほど、ほんとうに考えてみれば、並々の人でないご運命であったと、尼君を非難がましく見ていた子供たちも、皆涙ぐんだ。
 しみじみと話して、袖で涙を拭いている美しい源氏を見ては、この方の乳母でありえたわが母もよい前生の縁を持った人に違いないという気がして、さっきから批難がましくしていた兄弟たちも、しんみりとした同情を母へ持つようになった。
   to nam, komayaka ni katarahi tamahi te, osi-nogohi tamahe ru sode no nihohi mo, ito tokoro-seki made kawori-miti taru ni, geni, yoni omohe ba, osinabe tara nu hito no mi-sukuse zo kasi to, Ama-Gimi wo modokasi to mi turu kodomo, mina uti-sihotare keri.
1.1.25   修法など、またまた始むべきことなど掟てのたまはせて、出でたまふとて、惟光に紙燭召して、 ありつる扇御覧ずれば、もて馴らしたる移り香、いと染み深うなつかしくて、をかしうすさみ書きたり。
 修法などを、再び重ねて始めるべき事などをお命じあそばして、お立ちになろうとして、惟光に紙燭を持って来させて、先程の扇を御覧になると、使い慣らした主人の移り香が、とても深く染み込んで慕わしくて、美しく書き流してある。
 源氏が引き受けて、もっと祈祷を頼むことなどを命じてから、帰ろうとする時に惟光に蝋燭を点させて、さっき夕顔の花の載せられて来た扇を見た。よく使い込んであって、よい薫物の香のする扇に、きれいな字で歌が書かれてある。
  Syuhohu nado, mata mata hazimu beki koto nado okite notamahase te, ide tamahu tote, Koremitu ni sisoku mesi te, arituru ahugi go-ran-zure ba, mote-narasi taru uturiga, ito simi hukau natukasiku te, wokasiu susami kaki tari.
1.1.26  「 心あてにそれかとぞ見る白露の
 「当て推量に貴方さまでしょうかと思います
  心あてにそれかとぞ見る白露の
    "Kokoro-ate ni sore ka to zo miru sira-tuyu no
1.1.27   光そへたる夕顔の花
  白露の光を加えて美しい夕顔の花は
  光添へたる夕顔の花
    hikari sohe taru yuhugaho no hana
1.1.28  そこはかとなく書き紛らはしたるも、あてはかに ゆゑづきたれば、いと思ひのほかに、をかしうおぼえたまふ。惟光に、
 誰とも分からないように書き紛らわしているのも、上品に教養が見えるので、とても意外に、興味を惹かれなさる。惟光に、
 散らし書きの字が上品に見えた。少し意外だった源氏は、風流遊戯をしかけた女性に好感を覚えた。惟光に、
  Sokohakatonaku kaki magirahasi taru mo, atehaka ni yuwe-duki tare ba, ito omohi no hoka ni, wokasiu oboye tamahu. Koremitu ni,
1.1.29  「 この西なる家は 何人の住むぞ問ひ聞きたりや
 「この家の西にある家にはどんな者が住んでいるのか。尋ね聞いているか」
 「この隣の家にはだれが住んでいるのか、聞いたことがあるか」
  "Kono nisi naru ihe ha nani-bito no sumu zo? Tohi-kiki tari ya?"
1.1.30  とのたまへば、 例のうるさき御心とは思へども、 えさは申さで
 とお尋ねになると、いつもの厄介なお癖とは思うが、そうは申し上げず、
 と言うと、惟光は主人の例の好色癖が出てきたと思った。
  to notamahe ba, rei no urusaki mi-kokoro to ha omohe domo, e sa ha mausa de,
1.1.31  「 この五、六日ここにはべれど、 病者のことを 思うたまへ扱ひはべるほどに、隣のことはえ聞きはべらず」
 「この五、六日この家におりますが、病人のことを心配して看護しております時なので、隣のことは聞けません」
 「この五、六日母の家におりますが、病人の世話をしておりますので、隣のことはまだ聞いておりません」
  "Kono go, roku-niti koko ni habere do, byauzya no koto wo omou tamahe atukahi haberu hodo ni, tonari no koto ha e kiki habera zu."
1.1.32  など、 はしたなやかに聞こゆれば、
 などと、無愛想に申し上げるので、
 惟光が冷淡に答えると、源氏は、
  nado, hasitanayaka ni kikoyure ba,
1.1.33  「 憎しとこそ思ひたれなされど、この扇の、尋ぬべきゆゑありて 見ゆるを。なほ、このわたりの 心知れらむ者を召して問へ」
 「気に入らないと思っているな。けれど、この扇について、尋ねなければならない理由がありそうに思われるのですよ。やはり、この界隈の事情を知っていそうな者を呼んで尋ねよ」
 「こんなことを聞いたのでおもしろく思わないんだね。でもこの扇が私の興昧をひくのだ。この辺のことに詳しい人を呼んで聞いてごらん」
  "Nikusi to koso omohi tare na. Saredo, kono ahugi no, tadunu beki yuwe ari te miyuru wo. Naho, kono watari no kokoro-sire ra m mono wo mesi te tohe."
1.1.34  とのたまへば、 入りてこの宿守なる男を呼びて問ひ聞く。
 とおっしゃるので、入って行って、この家の管理人の男を呼んで尋ねる。
 と言った。はいって行って隣の番人と逢って来た惟光は、
  to notamahe ba, iri te, kono yadomori naru wonoko wo yobi te, tohi-kiku.
1.1.35  「 揚名介なる人の家になむはべりける。 男は田舎にまかりて 、妻なむ若く事好みて、はらからなど宮仕人にて来通ふ、と申す。詳しきことは、下人の え知りはべらぬにやあらむ」と聞こゆ。
 「揚名介である人の家だそうでございました。男は地方に下向して、妻は若く派手好きで、その姉妹などが宮仕え人として行き来している、と申します。詳しいことは、下人にはよく分からないのでございましょう」と申し上げる。
 「地方庁の介の名だけをいただいている人の家でございました。主人は田舎へ行っているそうで、若い風流好きな細君がいて、女房勤めをしているその姉妹たちがよく出入りすると申します。詳しいことは下人で、よくわからないのでございましょう」
 と報告した。
  "Yaumei-no-suke naru hito no ihe ni nam haberi keru. Wotoko ha winaka ni makari te, me nam wakaku koto konomi te, harakara nado miyadukahe-bito nite ki-kayohu, to mausu. Kuhasiki koto ha, simo-bito no e siri habera nu ni ya ara m" to kikoyu.
1.1.36  「 さらば、その 宮仕人ななり。したり顔にもの馴れて 言へるかな」と、「 めざましかるべき際にやあらむ」と思せど、さして聞こえかかれる心の、憎からず過ぐしがたきぞ、 例の、この方には重からぬ御心なめるかし。御畳紙にいたう あらぬさまに書き変へたまひて、
 「それでは、その宮仕人のようだ。得意顔になれなれしく詠みかけてきたものよ」と、「きっと興覚めしそうな身分ではなかろうか」とお思いになるが、名指して詠みかけてきた気持ちが、憎からず見過ごしがたいのが、例によって、こういった方面には、重々しくないご性分なのであろう。御畳紙にすっかり別筆にお書きになって、
 ではその女房をしているという女たちなのであろうと源氏は解釈して、いい気になって、物馴れた戯れをしかけたものだと思い、下の品であろうが、自分を光源氏と見て詠んだ歌をよこされたのに対して、何か言わねばならぬという気がした。というのは女性にはほだされやすい性格だからである。懐紙に、別人のような字体で書いた。
  "Saraba, sono miyadukahe-bito na' nari. Sitari-gaho ni mono-nare te ihe ru kana!" to, "Mezamasikaru beki kiha ni ya ara m" to obose do, sasite kikoye kakare ru kokoro no, nikukara zu sugusi-gataki zo, rei no, kono kata ni ha omokara nu mi-kokoro na' meru kasi. Ohom-tataugami ni itau ara nu sama ni kaki-kahe tamahi te,
1.1.37  「 寄りてこそそれかとも見めたそかれに
 「もっと近寄って誰ともはっきり見たらどうでしょう
  寄りてこそそれかとも見め黄昏れに
    "Yori te koso sore ka to mo mi me tasokare ni
1.1.38   ほのぼの見つる花の夕顔
  黄昏時にぼんやりと見えた花の夕顔を
  ほのぼの見つる花の夕顔
    hono-bono mi turu hana no yuhugaho
1.1.39   ありつる御随身して遣はす。
 先程の御随身をお遣わしになる。
 花を折りに行った随身に持たせてやった。
  Arituru mi-zuizin site tukahasu.
1.1.40   まだ見ぬ御さまなりけれど、いとしるく思ひあてられたまへる御側目を見過ぐさで、さしおどろかしけるを、答へたまはでほど経ければ、なまはしたなきに、かくわざとめかしければ、あまえて、「いかに聞こえむ」など 言ひしろふべかめれど、めざましと思ひて、随身は参りぬ。
 まだ見たことのないお姿であったが、まことにはっきりと推察されなさるおん横顔を見過ごさないで、さっそく詠みかけたのに、返歌を下さらないで時間が過ぎたので、何となく体裁悪く思っていたところに、このようにわざわざ来たというふうだったので、いい気になって、「何と申し上げよう」などと言い合っているようだが、生意気なと思って、随身は帰参した。
 夕顔の花の家の人は源氏を知らなかったが、隣の家の主人筋らしい貴人はそれらしく思われて贈った歌に、返事のないのにきまり悪さを感じていたところへ、わざわざ使いに返歌を持たせてよこされたので、またこれに対して何か言わねばならぬなどと皆で言い合ったであろうが、身分をわきまえないしかただと反感を持っていた随身は、渡す物を渡しただけですぐに帰って来た。
  Mada mi nu ohom-sama nari kere do, ito siruku omohi-ate rare tamahe ru ohom-sobame wo mi-sugusa de sasi-odorokasi keru wo, irahe tamaha de hodo he kere ba, nama-hasitanaki ni, kaku wazato-mekasi kere ba, amaye te, "Ikani kikoye m?" nado ihi-sirohu beka' mere do, mezamasi to omohi te, zuizin ha mawiri nu.
1.1.41  御前駆の 松明ほのかにていと忍びて出でたまふ半蔀は下ろしてけり。隙々より見ゆる灯の光、 蛍よりけにほのかにあはれなり。
 御前駆の松明を弱く照らして、とてもひっそりとお出になる。半蔀は既に下ろされていた。隙間隙間から見える灯火の明りは、蛍よりもさらに微かでしみじみとした思いである。
 前駆の者が馬上で掲げて行く松明の明りがほのかにしか光らないで源氏の車は行った。高窓はもう戸がおろしてあった。その隙間から蛍以上にかすかな灯の光が見えた。
  Ohom-saki no matu honoka nite, ito sinobi te ide tamahu. Hazitomi ha orosi te keri. Hima-hima yori miyuru hi no hikari, hotaru yori keni honoka ni ahare nari.
1.1.42   御心ざしの所には、木立 前栽など、なべての所に似ず、いとのどかに心にくく住みなしたまへり。 うちとけぬ御ありさまなどの、気色ことなるに、 ありつる垣根 思ほし出でらるべくもあらずかし
 お目当ての所では、木立や前栽などが、世間一般の所とは違い、とてもゆったりと奥ゆかしく住んでいらっしゃる。気の置けるご様子などが、他の人とは格別なので、先程の垣根の女などはお思い出されるはずもない。
 源氏の恋人の六条貴女の邸は大きかった。広い美しい庭があって、家の中は気高く上手に住み馴らしてあった。まだまったく源氏の物とも思わせない、打ち解けぬ貴女を扱うのに心を奪われて、もう源氏は夕顔の花を思い出す余裕を持っていなかったのである。
  Mi-kokorozasi no tokoro ni ha, kodati sensai nado, nabete no tokoro ni ni zu, ito nodoka ni kokoro-nikuku sumi-nasi tamahe ri. Utitoke nu ohom-arisama nado no, kesiki koto naru ni, arituru kakine omohosi-ide raru beku mo ara zu kasi.
1.1.43   翌朝、すこし寝過ぐしたまひて、日さし出づるほどに出でたまふ。 朝明の姿は、げに人のめできこえむも、ことわりなる御さまなりけり。
 翌朝、少しお寝過ごしなさって、日が差し出るころにお帰りになる。朝帰りの姿は、なるほど世間の人がお褒め申し上げるようなのも、ごもっともなお美しさであった。
 早朝の帰りが少しおくれて、日のさしそめたころに出かける源氏の姿には、世間から大騒ぎされるだけの美は十分に備わっていた。
  Tutomete, sukosi ne-sugusi tamahi te, hi sasi-iduru hodo ni ide tamahu. Asake no sugata ha, geni hito no mede kikoye m mo kotowari naru ohom-sama nari keri.
1.1.44   今日もこの蔀の前渡りしたまふ来し方も過ぎたまひけむわたりなれど、 ただはかなき一ふしに御心とまりて、「 いかなる人の住み処ならむ」とは、往き来に御目とまりたまひけり。
 今日もこの半蔀の前をお通り過ぎになる。今までにも通り過ぎなさった辺りであるが、わずかちょっとしたことでお気持ちを惹かれて、「どのような女が住んでいる家なのだろうか」と思っては、行き帰りにお目が止まるのであった。
 今朝も五条の蔀風の門の前を通った。以前からの通り路ではあるが、あのちょっとしたことに興味を持ってからは、行き来のたびにその家が源氏の目についた。
  Kehu mo kono sitomi no mahe-watari si tamahu. Kisi-kata mo sugi tamahi kem watari nare do, tada hakanaki hito-husi ni mi-kokoro tomari te, "Ika naru hito no sumika nara m?" to ha, yuki-ki ni ohom-me tomari tamahi keri.
注釈1六条わたりの御忍び歩きのころ源氏の六条辺りの女性へのお忍び通いのころの物語。夏の最も暑い六月ころの物語。六条は、当時都の場末といった感じの所。1.1.1
注釈2中宿途中の休憩所。旅や遠出の折に使用した知人の家や邸宅。1.1.1
注釈3大弐の乳母源氏の乳母の一人。大弐は従四位下相当官。その人の妻。なお源氏にはもう一人の乳母がいる。「末摘花」巻に登場する左衛門の乳母。1.1.1
注釈4尼になりにける諸本すべて格助詞「を」を持たない。尼になった、その人を、というニュアンスの構文。1.1.1
注釈5五条なる家尋ねて源氏はこの家をしばらく訪問していなかった趣きである。あるいは初めての訪問か。1.1.1
注釈6御車入るべき門賓客の出入りする門。表門。普段は使用されない。家人は通用門を使用。1.1.2
注釈7惟光召させて大弍の乳母の子、すなわち源氏の乳母子。使役の助動詞「せ」連用形。1.1.2
注釈8待たせたまひけるほど主語は源氏。尊敬の助動詞「せ」連用形+尊敬の補助動詞「たまひ」連用形、最高敬語。1.1.2
注釈9むつかしげなる大路のさま五条大路であろう。1.1.2
注釈10見わたしたまへるに主語は源氏。接続助詞「に」順接。--していると、の意。以下、源氏の目を通して語る叙述。1.1.2
注釈11桧垣といふもの檜の薄い板を網代形に組んで作った垣。庶民の家の作り物。桧垣の絵が「春日権現験記絵」(宮内庁三の丸尚蔵館)に見える。上流貴族には縁遠い物なので「といふもの」と語られる。しかしここでは垣としてではなく下半分のはめ込み戸代わりに使用したものであろう。「扇面古写経」にその絵が見られる。その図が『評釈』に掲載されている。1.1.2
注釈12上は半蔀四五間ばかり上げわたして半蔀は戸の一種。下半分は桧垣戸をはめ込み、上半分は蔀戸を外側に釣り上げていた。1.1.2
注釈13簾など身分の低い者の家では「簾」といい、高貴な家では「御簾」といって、使い分けられている。1.1.2
注釈14涼しげなるに「涼しげなる」の下に「所」などの語が省略されている。格助詞「に」場所を表す。1.1.2
注釈15をかしき額つきの透影美しい額つきをした女の影が簾の内側に見える、という意。1.1.2
注釈16見えて覗く透き影が外の源氏の方を覗いている意。1.1.2
注釈17立ちさまよふらむ下つ方下半分が桧垣によって見えない。推量の助動詞「らむ」連体形、視界外推量のニュアンス。1.1.2
注釈18あながちに丈高き心地ぞする女たちは踏み台の上などに乗って外を覗いているのだろう。1.1.2
注釈19いかなる者の集へるならむ源氏の心。1.1.2
注釈20御車もいたくやつしたまへりこの文は、以下「同じことなり」まで、読点によって続く一文である。源氏の気持ちが重ね合わされた表現である。1.1.3
注釈21前駆も追はせたまはず「御車もいたくやつしたまへり」と並列する。1.1.3
注釈22誰れとか知らむ反語表現。右の二文の並列を受けて、それゆえ、わたしを誰と分かろうか、誰とも分かるまい、という意の構文。1.1.3
注釈23すこしさし覗きたまへれば源氏が牛車の窓から。完了の助動詞「れ」存続の意。しばらく覗いているニュアンス。1.1.3
注釈24門は蔀のやうなる押し上げたる見入れのほどなく蔀戸を棒などで押し上げてある門。「春日権現験記」に竹を格子状に編んだ形の門の絵が見られる。断定の助動詞「なる」連体形の下に目的格を表す格助詞「を」ナシ。半蔀のような、それを押し上げてあり、その奥行きもなく、という一続きの視点で語られている構文。1.1.3
注釈25何処かさして『源氏釈』は「世の中はいづれかさしてわがならむ行きとまるをぞ宿と定むる」(古今集雑下 九八七 読人しらず」を指摘する。1.1.3
注釈26玉の台も同じことなり『河海抄』は「何せむに玉の台も八重葎はべらむ中に二人こそ寝め」(古今六帖六 葎)を指摘する。「玉の台」は歌語。金殿玉楼の立派な御殿に住むことも卑しい宿に住むことも同じく無常の世に住むことだ、違いはない。引歌の「二人こそ寝め」に源氏と夕顔の物語の将来を暗示させる。1.1.3
注釈27切懸だつ物に瓦屋根の葺き方のように横板を下から少しずつ立て重ねて作った板塀。1.1.4
注釈28いと青やかなる葛の心地よげに格助詞「の」主格を表す。1.1.4
注釈29這ひかかれるに格助詞「に」場所を表す。1.1.4
注釈30おのれひとり笑みの眉開けたる擬人法。係助詞「ぞ」--「完了の助動詞「たる」連体形、存続の意。係り結びの法則。強調のニュアンス。1.1.4
注釈31遠方人にもの申す源氏の独り言。『源氏釈』は「うち渡す遠方人に物申す我そのそこに白く咲けるは何の花ぞも」(古今集旋頭歌 一〇〇七 読人しらず)を指摘する。その和歌の語句を引用したもの。「何の花ぞも」と問うのが真意。1.1.5
注釈32独りごちたまふを主語は源氏。接続助詞「を」順接を表す。1.1.6
注釈33御隋身ついゐて中将の源氏には四人の随身が付く。1.1.6
注釈34かの白く咲けるをなむ以下「咲きはべりける」まで、御随身の返答。源氏の引歌を理解して適切に答える。「白く咲ける」は、その『古今集』歌の語句を踏まえて答えたもの。嗜みのある風雅な返答。係助詞「なむ」、丁寧の補助動詞「はべる」連体形、係り結びの法則。1.1.7
注釈35人めきて「顔」という言葉が付くので人のようだという意と、「人めく」の人並みの身分、すなわち貴族のようなという意を掛けた返答になっている。接続助詞「て」逆接を表す。1.1.7
注釈36垣根になむ咲きはべりける係助詞「なむ」、過去の助動詞「ける」連体形、詠嘆の意。係り結びの法則。1.1.7
注釈37げにいと小家がちに「げに」という言葉は源氏と語り手のどちらの感想ともとれる表現。1.1.8
注釈38むつかしげなるわたりの格助詞「の」同格を表す。1.1.8
注釈39このもかのも『源氏釈』は「筑波嶺のこのもかのもに蔭はあれど君が御蔭にます蔭はなし」(古今集東歌 一〇九五 常陸歌)を指摘。他に『河海抄』は「山風の吹きのまにまに紅葉ばはこのもかのもに散りぬべらなり」(後撰集秋下 四〇六 読人しらず)を指摘する。「このもかのも」は歌語。1.1.8
注釈40口惜しの花の契りや一房折りて参れ源氏の詞。夕顔という花の名は、ひとかどの身分を持っていながら卑しい界隈に身を落として咲くという花だから。非運な花よ。後に登場してくる女主人公夕顔の身の上を象徴する。1.1.9
注釈41門に入りて折る主語は御隋身。夕顔の花を手折る。1.1.10
注釈42さすがにされたる「さすがに」という言葉は源氏と語り手のどちらの目から見た感想ともとれる表現。粗末な家とはいうものの、の意。1.1.11
注釈43遣戸口遣戸は身分の低い者の家の戸。立派な寝殿造りでは妻戸。遣戸は寝殿の北側や裏手に付けられている。1.1.11
注釈44童の女の童。格助詞「の」同格を表す。1.1.11
注釈45をかしげなる連体形、主語となって下文に係る。1.1.11
注釈46うち招く『完訳』は「秋の野の草の袂か花薄ほに出でて招く袖と見ゆらむ」(古今集秋上 二四三 在原棟梁)や唐代伝奇『任氏伝』を指摘する。1.1.11
注釈47白き扇の格助詞「の」同格を表す。1.1.11
注釈48これに置きて以下「情けなげなめる花を」まで、女童の詞。1.1.12
注釈49情けなげなめる花を「なめる」は「なるめる」が撥音便化して「なんめる」さらに「ん」の無表記形。断定の助動詞「なる」連体形+推量の助動詞「める」連体形、主観的推量を表す。間投助詞「を」詠嘆の意を表す。1.1.12
注釈50取らせたれば緩やかな順接。与えたところ、門をあけて云々と続く。1.1.13
注釈51惟光朝臣出で来たるして格助詞「して」--に命じて、--を使って、の意。御随身は、ちょうどそこへ惟光朝臣が出て来たので、惟光から源氏に、という意。「出て来たる惟光の朝臣して」の語順を転換した構文。惟光の登場を強調した表現である。1.1.13
注釈52鍵を置きまどはしはべりて以下「立ちおはしまして」まで、惟光の挨拶。表門は普段は使用しないので、鍵がどこにあるか分からなかった、という言い訳。1.1.14
注釈53いと不便なるわざなりや終助詞「や」詠嘆。1.1.14
注釈54引き入れて下りたまふ惟光の邸宅に牛車を引き入れて、建物の入り口で下りる。1.1.15
注釈55惟光が兄の阿闍梨婿の三河守娘など惟光の兄の阿闍梨、尼君の娘婿の三河守、尼君の娘など、大弐乳母の子供たちが集まっている。1.1.15
注釈56尼君も起き上がりて病床から身を起こして。貴人を迎える礼儀。1.1.16
注釈57惜しげなき身なれど以下「待たれはべるべき」まで、尼君の詞。源氏のお見舞いに対する感謝の挨拶。1.1.17
注釈58捨てがたく思うたまへつること「思う」は「思ひ」のウ音便化。謙譲の補助動詞「たまへ」下二段活用、連用形。完了の助動詞「つる」連体形。存じておりました。1.1.17
注釈59かく御前にさぶらひ「御前」は源氏をさす。「さぶらひ」の主語は自分尼君。1.1.17
注釈60御覧ぜらるること受身の助動詞「らるる」連体形。源氏から見られる、意。1.1.17
注釈61変りはべりなむこと完了の助動詞「な」未然形、確述、推量の助動詞「む」連体形、推量の意。1.1.17
注釈62よみがへりてなむ係助詞「なむ」は下に「はべる」などの語が省略されていると解される。1.1.17
注釈63見たまへはべりぬれば謙譲の補助動詞「たまへ」連用形、丁寧の補助動詞「はべり」連用形、完了の助動詞「ぬれ」已然形、原因理由を表す。1.1.17
注釈64今なむ係助詞「なむ」は「待たれはべるべき」連体形に係る。係り結びの法則。1.1.17
注釈65阿弥陀仏底本の大島本には「あみた仏」とある。読みは「あみだぼとけ」か、または「あみだぶつ」か不明。1.1.17
注釈66待たれはべるべき可能の助動詞「れ」連用形。1.1.17
注釈67日ごろおこたりがたく以下「悪ろきわざとなむ聞く」まで、源氏の見舞いの詞。1.1.19
注釈68ものせらるるを主語はあなた尼君。尊敬の補助動詞「らるる」連体形。尊敬の補助動詞「たまふ」四段活用よりも軽い敬意。「おられる」くらいの意。1.1.19
注釈69安からず嘆きわたりつるに主語は自分源氏。接続助詞「に」弱い逆接を表す。お姿を拝して少しは安心したが、しかしこのように、というニュアンスで下文に続く。1.1.19
注釈70口惜しうなむ係助詞「なむ」の下には「思ふ」また「思ひ給ふる」などの語(連体形)が省略されている。1.1.19
注釈71なほ位高くなどわたしの位が高くなるのなどをの意。「高く」の下に「なりなむを」などの語句が省略された形。1.1.19
注釈72さてこそ副詞「さて」そうじう状態で、そうあって、の意。係助詞「こそ」と共に「生まれたまはめ」已然形に係る係り結びの法則。1.1.19
注釈73九品の上にも九品浄土の最上位、極楽浄土の上品上生。1.1.19
注釈74かたほなるをだに以下「すずろに涙がちなり」まで、語り手の乳母に対する批評を含んだ表現。「--だに--まして--」という構文。副助詞「だに」最小限を表す。「べき」「べかめる」は語り手の感情移入の語。『岷江入楚』は「草子の地歟」と注す。1.1.20
注釈75いと面立たしう源氏の君の乳母となったことを光栄だと思う。1.1.20
注釈76思ほゆべかめれば「べかめる」は推量の助動詞「べかる」連体形+推量の助動詞「める」連体形、話者の主観的推量の形。「べかる」の「る」が撥音便化し、さらに「ん」が無表記の形。1.1.20
注釈77子どもは大弐の乳母の子供たち。1.1.21
注釈78背きぬる世の以下「御覧ぜられたまふ」まで、乳母の子供たちの詞。1.1.21
注釈79御覧ぜられたまふ受身の助動詞「られ」連用形、尊敬の補助動詞「たまふ」、話者(子供たち)の乳母(母親)に対する敬意。「御覧ず」は源氏の君を想定した表現。1.1.21
注釈80いとあはれと思ほして「あはれ」は、しみじみといたわしい気持ち。「思ほす」は「思ふ」の尊敬表現。1.1.22
注釈81いはけなかりけるほどに以下「なくもがな」まで、源氏の詞。源氏は三歳で母桐壺更衣に死別、六歳で祖母に死別。1.1.23
注釈82思ふべき人びと母親や祖母をさす。1.1.23
注釈83あるやうなりしかど過去の助動詞「しか」已然形+接続助詞「ど」逆接を表す。1.1.23
注釈84またなくなむ思ほえしあなた(大弐の乳母)以外にはいない。係助詞「なむ」、過去の助動詞「し」連体形に係る係り結びの法則。「思ほゆ」自発の意味がこもる。1.1.23
注釈85限りあれば高貴な身分から生じるさまざまな制約、きまり。1.1.23
注釈86朝夕にしもえ見たてまつらず副助詞「しも」強調の意。副助詞「え」は打消の助動詞「ず」と呼応して不可能の意を表す。1.1.23
注釈87さらぬ別れはなくもがな「さらぬ」は避けられない、の意。「避る」の未然形+打消の助動詞「ぬ」連体形。「世の中にさらぬ別れのなくもがな千代もと嘆く人の子のため」(伊勢物語・古今集雑上 九〇一 在原業平)の第二句第三句の文句を助詞を変えて引用する。1.1.23
注釈88となむ『集成』『古典セレクション』等は共に諸本に従って「など」の語句を補う。係助詞「なむ」は「語らふ」に係るが、下文に続いて係り結びの流れとなっている。1.1.24
注釈89げによに思へば以下「人の御宿世ぞかし」まで、語り手と尼君の子供たちの心理が一体化した表現である。副詞「げに」は源氏がいかに大弐の乳母を大事な人と思っていたかという発言をうける。副詞「よに」は、程度のはなはだしいさま。ほんとうに、とりわけ、の意。1.1.24
注釈90修法「従来第一音節を濁って「ずほふ」とするものが多いが、「修」の字音が漢音シウ・呉音シュで、清音であること(中国の中古音でも清音)、「しゅほふ」の場合の「しゅ」も清音であること、接頭語「み」を冠した形が転じて「みしほ」となる場合の「し」も清音であること、濁音表記の比較的に多い首書源氏物語の中の仮名書きの用例三一例がすべて清音表記であることなどからみて、古くは、「ふほふ」と清んでいたらしい。なお源氏物語湖月抄には「ずほふ」<夕霧>などのように、濁った形が認められるから、江戸初期ごろに濁音形が成立したものと思われる(岡崎正継)」(小学館古語大辞典)。1.1.25
注釈91ありつる扇夕顔の花の咲いていた宿の女から贈られた扇。1.1.25
注釈92心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕顔の花女の贈歌。『異本紫明抄』は「心あてに折らばや折らむ初霜の置き惑はせる白菊の花」(古今集秋下 二七七 凡河内躬恒)を指摘する。「白露の光そへたる」という言葉から、光源氏を暗示する。この和歌をめぐっては諸説ある。『新大系』は「この歌の詠み手は夕顔その人ではないとする説、末句を「夕顔の花は」と解して夕顔自身が名告っているとする説、花は女性の隠喩であるとしてこの歌に挑発の気持がこもると見る説、男を元の愛人(頭中将)かと女が推量していると取る説など、諸説がある」と注す。いずれとも解せるところに和歌特有の表現機能がある。1.1.26
注釈93ゆゑづきたれば「ゆゑづく」は趣きがそなわっている、奥ゆかしい、意。1.1.28
注釈94この西なる家は以下「問ひ聞きたりや」まで、源氏の詞。助動詞「なる」連体形は「にあり」の約。存在を表す。1.1.29
注釈95何人の住むぞ係助詞「ぞ」は疑問の語(「何人」)と共に用いて問いただす意を表す。1.1.29
注釈96問ひ聞きたりや完了の助動詞「たり」終止形、存続の意。係助詞「や」疑問の意を表す。1.1.29
注釈97例のうるさき御心「例の」とあることによって、源氏と惟光の親密な関係や普段の源氏の行動が過去に遡って想像される表現である。1.1.30
注釈98えさは申さで副詞「え」は打消の語「で」(否定の接続助詞)と共に用いられて、不可能の意を表す。惟光は源氏と親しい乳母子の関係にあるとはいえ、はっきりそうと明言することはできないで、というニュアンスがある。1.1.30
注釈99この五六日ここに以下「え聞きはべらず」まで、惟光の返答。惟光も日頃は源氏と行動を共にしていて、実家にここ五、六日は帰ってきているとは言っても近所のことはよく知らないという状況。1.1.31
注釈100病者「ばうざ」は「びょうじゃ」の直音表記。1.1.31
注釈101思うたまへ扱ひはべる「思う」は「思ひ」(連用形)がイ音便化し、さらに「う」と表記された形。謙譲の補助動詞「たまへ」下二段活用、連用形。丁寧の補助動詞「はべる」連体形。1.1.31
注釈102はしたなやかに取りつく島もない、無愛想だ、という意。1.1.32
注釈103憎しとこそ思ひたれな以下「召して問へ」まで、源氏の詞。係助詞「こそ」は完了の助動詞「たれ」已然形に係る。係結びの法則。終助詞「な」詠嘆を表す。「憎し」は気に入らない、見苦しい、などの意。わたしの言うことがあなたは気に入らないのだな、あるいは、わたしの言うことがみっともないというのだな、というニュアンス。1.1.33
注釈104されどこの扇の逆接の接続助詞。格助詞「の」動作の対象を表す。この扇について、の意。1.1.33
注釈105見ゆるを間投助詞「を」詠嘆の意を表す。1.1.33
注釈106心知れらむ者を四段動詞「心知れ」已然形(あるいは命令形)+完了の助動詞「ら」未然形、存続の意+推量の助動詞「む」連体形。1.1.33
注釈107入りて主語は惟光。奥に入っていって、母の家の管理人(宿守)に尋ねる。1.1.34
注釈108この宿守なる男乳母の家の管理人。1.1.34
注釈109揚名介なる人の以下「にやあらむ」まで、惟光の返答。「揚名介」は名前だけで実務や俸給も伴わない地方官の次官で、名誉職。裕福な者がお金を収めてその名をもらった。1.1.35
注釈110男は田舎にまかりて以下「宮仕人にて来通ふ」まで下人の報告を惟光が引用して報告。西隣の家の主人。「田舎にまかりて」は商用などのために地方に下っているのであろう。1.1.35
注釈111え知りはべらぬにやあらむ副詞「え」打消の語「ぬ」と共に用いられて不可能の意を表す。打消の助動詞「ぬ」連体形、断定の助動詞「に」連用形。係助詞「や」疑問の意で、推量の助動詞「む」連体形に係る。1.1.35
注釈112さらばその以下「際にやあらむ」まで、源氏の心に添った叙述。1.1.36
注釈113宮仕人ななり断定の助動詞「なる」連体形「る」の撥音便化さらに無表記の形+伝聞推定の助動詞「なり」終止形。宮仕え人であるらしいの意。1.1.36
注釈114言へるかな「言ふ」は歌を詠むこと。「言へ」已然形、完了の助動詞「る」連体形、存続の意、終助詞「かな」詠嘆の意。1.1.36
注釈115めざましかるべき際にやあらむ形容詞「目覚まし」は「本来は、単に目が覚めるほど意外だという意だったが、平安文学などの用例では、階級意識・上下意識に支えられており、上者から見て、下者の言動に身分・分際を越えたものがあると感じられた場合に、用いられている。従って、けなすときには、身の程を知らない失敬なことだという感じ、また、ほめるときには、身分の低いわりには大したものだという感じを伴う」(小学館古語大辞典)。ここでは、興味がそがれる、意。断定の助動詞「に」連用形、係助詞「や」疑問、推量の助動詞「む」連体形。『新大系』は「源氏は、宮仕え人だとしても低い分際の女だろうと思い、興ざめしている」と注す。1.1.36
注釈116例の以下「御心なめるかし」まで、語り手の源氏の性格に対する批評を交えた表現。「なめる」は断定の助動詞「なる」連体形「る」が撥音便化さらに無表記の形+推量の助動詞「める」連体形、話者の主観的推量の意。終助詞「かし」念押しの意。『岷江入楚』所引の三光院実枝説は「作者の評なり」と指摘する。『評釈』は「君がこう思って、それでやめてしまったら、物語にならない。「例の、このかたに」と、ことわって、作者は君に返歌さすのである」と注す。1.1.36
注釈117あらぬさまに書き変へ返歌の主が源氏と知られないように書き紛らす。『新大系』は「あらぬ筆跡の返歌をさっきの随身に持たせることによって、この随身が仕える人は女が考えるような光源氏ではない、という重要なアピールになる」と注す。1.1.36
注釈118寄りてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見つる花の夕顔源氏の返歌。「それかとぞ見る」を「それかとも見め」、「夕顔の花」を「花の夕顔」と言い換えて返す。「見る」及び「花の夕顔」の主体また客体を誰と解するかによって解釈が別れる。和歌とはそもそも多義性をはらんだ表現世界である。したがって、第一義的には何をいい、副次的また裏の意で何と言っているのか、考えておく必要がある。『古典セレクション』は「見る」の主語を自分とし「夕顔」を相手と解して「もっと近くに寄って、はっきりお目にかかろうと思います。夕暮時にぼんやりと見た花の夕顔を」と訳す。反対に『新大系』は「見る」の主語を相手とし「夕顔」を自分と解して「近くに寄って見て誰それかと分かろうものですよ、黄昏時にぼんやりとご覧になったばかりの花の(花みたいに美しい)夕顔(夕方の顔)をね」と訳す。贈答歌の返歌は相手の言葉を引用しながらそれをずらして用いて切り返すのが常套。相手にもっと近づいてはっきりわたしをみたらどうですか、という挑み返した歌。1.1.37
注釈119ありつる御随身して花を折りに夕顔の宿に入っていって女童から扇を受け取った随身。1.1.39
注釈120まだ見ぬ御さまなりけれどいとしるく思ひあてられたまへる御側目を見過ぐさで視点は夕顔の宿の女に移り、源氏が返歌してくるまでの間を語る。「御さま」「御側目」は源氏をさす。「見過ぐす」の主語は夕顔の宿の女。夕顔の宿の女方は、まだ見たこともない源氏の姿であっが、実にはっきりと、その人と推察して歌を詠みかけたが、というふうに語り手は叙述する。1.1.40
注釈121言ひしろふべかめれど「べか」は推量の助動詞「べかる」連体形の「る」が撥音便化しさらに無表記の形。推量の助動詞「めれ」已然形、主観的推量の主体者は御随身。1.1.40
注釈122松明ほのかにて目立たぬように配慮したもの。1.1.41
注釈123いと忍びて出でたまふ源氏一行は大弐乳母の家を出て六条辺りのお忍び所に向かう。1.1.41
注釈124半蔀は下ろしてけり前に「半蔀四五間ばかり上げわたして」とあった夕顔の宿の半蔀。完了の助動詞「て」連用形。過去の助動詞「けり」終止形。見る者からは軽い失望のニュアンスが伝わってくる。1.1.41
注釈125蛍よりけにほのかに『河海抄』は「夕されば蛍よりけに燃ゆれども光見ねばや人のつれなき」(古今集 恋二 五六二 紀友則)を指摘する。五条界隈の単なる風景描写に留まらず、この引歌の語句から背後に源氏のこの宿の女に対する恋の思いが裏打ちされている。1.1.41
注釈126御心ざしの所冒頭の「六条わたりの御忍びありき」の女性。1.1.42
注釈127前栽「平安時代にはセンサイと清音」(岩波古語辞典)。1.1.42
注釈128うちとけぬ御ありさま打消の助動詞「ぬ」連体形。近寄りがたい、気骨が折れる、意。1.1.42
注釈129ありつる垣根さきほどの夕顔の宿の女。譬喩表現。1.1.42
注釈130思ほし出でらるべくもあらずかし自発の助動詞「らる」連体形、推量の助動詞「べく」連用形、当然の意、係助詞「も」強調の意、打消の助動詞「ず」終止形、終助詞「あkし」念押しの意。語り手の口吻が伝わってくる。1.1.42
注釈131翌朝すこし寝過ぐしたまひて六条辺りの貴婦人の邸に泊まった。「寝過ごす」とは夫婦きどりの愛人宅である。1.1.43
注釈132朝明の姿朝の光の中に映し出された姿形。まぶしいほど美しい様子。『河海抄』は「わがせこが朝明の姿よく見ずて今日の間を恋ひ暮らすかも」(万葉集巻十二 二八五二)を指摘する。歌語。1.1.43
注釈133今日もこの蔀の前渡りしたまふ「この蔀」は夕顔の宿の半蔀。その前を素通りする。1.1.44
注釈134来し方も過ぎたまひけむわたり今までにも六条辺りへのお忍び通いの折には通った所、の意。1.1.44
注釈135ただはかなき一ふしに夕顔の宿の女が扇に和歌を書き付けて寄こしたことをさす。1.1.44
注釈136いかなる人の住み処ならむ源氏の心。1.1.44
出典1 何処かさして 世の中はいづれかさして我がならむ行きとまるをぞ宿と定むる 古今集雑下-九八七 読人しらず 1.1.3
出典2 玉の台も同じこと 何せむに玉の台も八重葎はへらむ宿に二人こそ寝む 古今六帖六-三八七四 1.1.3
出典3 遠方人にもの申す うち渡す遠方人に物申す我そのそこに白く咲けるは何の花ぞも 古今集旋頭歌-一〇〇七 読人しらず 1.1.5
出典4 このもかのも 筑波嶺のこのもかのもに影はあれど君が御影に増す影はなし 古今集東歌-一〇九五 常陸歌 1.1.8
出典5 さらぬ別れはなくもがな 老いぬれば去らぬ別れもなくもがないよいよ見まくほしき君かな 古今集雑上-九〇〇 在原業平の母 1.1.23
世の中にさらぬ別れのなくもがな千代もと嘆く人の子のため 古今集雑下-九〇一 在原業平
校訂1 らうがはしき らうがはしき--らうる(る/$か<朱>)はしき 1.1.14
校訂2 所狭き 所狭き--(/+所<朱>)せき 1.1.24
校訂3 まかりて まかりて--さ(さ/$ま<朱>)かりて 1.1.35
1.2
第二段 数日後、夕顔の宿の報告


1-2  After several days

1.2.1  惟光、日頃ありて参れり。
 惟光が、数日して参上した。
 幾日かして惟光が出て来た。
  Koremitu, higoro ari te mawire ri.
1.2.2 わづらひはべる人、なほ弱げにはべれば、とかく 見たまへあつかひてなむ
 「患っております者が、依然として弱そうでございましたので、いろいろと看病いたしておりまして」
 「病人がまだひどく衰弱しているものでございますから、どうしてもそのほうの手が離せませんで、失礼いたしました」
  "Wadurahi haberu hito, naho yowage ni habere ba, tokaku mi tamahe atukahi te nam."
1.2.3 など、聞こえて、 近く参り寄りて聞こゆ
 などと、ご挨拶申し上げて、近くに上って申し上げる。
こんな挨拶をしたあとで、少し源氏の君の近くへ膝を進めて惟光朝臣は言った。
  nado, kikoye te, tikaku mawiri yori te kikoyu.
1.2.4 仰せられしのちなむ、隣のこと知りてはべる者、呼びて問はせはべりしかど、はかばかしくも申しはべらず。『 いと忍びて、五月のころほひよりものしたまふ 人なむあるべけれど、その人とは、 さらに家の内の人にだに知らせずとなむ申す
 「仰せ言のございました後に、隣のことを知っております者を、呼んで尋ねさせましたが、はっきりとは申しません。『ごく内密に、五月のころからおいでの方があるようですが、誰それとは、全然その家の内の人にさえ知らせません』と申します。
 「お話がございましたあとで、隣のことによく通じております者を呼び寄せまして、聞かせたのでございますが、よくは話さないのでございます。この五月ごろからそっと来て同居している人があるようですが、どなたなのか、家の者にもわからせないようにしていますと申すのです。
  "Ohose rare si noti nam, tonari no koto siri te haberu mono yobi te, toha se haberi sika do, haka-bakasiku mo mausi habera zu. 'Ito sinobi te satuki no korohohi yori monosi tamahu hito nam aru bekere do, sono hito to ha, sarani ihe no uti no hito ni dani sira se zu' to nam mausu.
1.2.5   時々、中垣のかいま見しはべるにげに若き女どもの透影見えはべり。 褶だつものかごとばかり 引きかけてかしづく人はべるなめり
 時々、中垣から覗き見いたしますと、なるほど、若い女たちの透き影が見えます。褶めいた物を、申しわけ程度にひっかけているので、仕えている主人がいるようでございます。
 時々私の家との間の垣根から私はのぞいて見るのですが、いかにもあの家には若い女の人たちがいるらしい影が簾から見えます。主人がいなければつけない裳を言いわけほどにでも女たちがつけておりますから、主人である女が一人いるに違いございません。
  Toki-doki nakagaki no kaimami si haberu ni, geni wakaki womna-domo no sukikage miye haberi. Sibira-datu mono, kagoto bakari hiki-kake te, kasiduku hito haberu na' meri.
1.2.6  昨日、夕日のなごりなく さし入りてはべりしに、文書くとてゐてはべりし人の、 顔こそいとよくはべりしか。もの思へるけはひして、 ある人びとも忍びてうち泣く さまなどなむ、しるく見えはべる
 昨日、夕日がいっぱいに射し込んでいました時に、手紙を書こうとして座っていました女人の顔が、とてもようございました。憂えに沈んでいるような感じがして、側にいる女房たちも涙を隠して泣いている様子などが、はっきりと見えました」
 昨日夕日がすっかり家の中へさし込んでいました時に、すわって手紙を書いている女の顔が非常にきれいでした。物思いがあるふうでございましたよ。女房の中には泣いている者も確かにおりました」
  Kinohu, yuhuhi no nagori naku sasi-iri te haberi si ni, humi kaku tote wi te haberi si hito no, kaho koso ito yoku haberi sika. Mono-omohe ru kehahi si te, aru hito-bito mo sinobi te uti-naku sama nado nam, siruku miye haberu."
1.2.7  と聞こゆ。君うち笑みたまひて、「 知らばや」と 思ほしたり
 と申し上げる。源氏の君はにっこりなさって、「知りたいものだ」とお思いになった。
 源氏はほほえんでいたが、もっと詳しく知りたいと思うふうである。
  to kikoyu. Kimi uti-wemi tamahi te, "Sira baya" to omohosi tari.
1.2.8   おぼえこそ重かるべき御身のほどなれど、御よはひのほど、人のなびきめできこえたる さまなど思ふには好きたまはざらむも、情けなく さうざうしかるべしかし人のうけひかぬほどにてだになほ、さりぬべきあたりのことはこのましうおぼゆるものをと思ひをり
 ご声望こそ重々しいはずのご身分であるが、ご年齢のほど、女性たちがお慕いしお褒め申し上げている様子などを考えると、興味をお感じにならないのも、風情がなくきっと物足りない気がするだろうが、世間の人が承知しない身分でさえ、やはり、しかるべき身分の人には、興味をそそられるものだから、と思っている。
 自重をなさらなければならない身分は身分でも、この若さと、この美の備わった方が、恋愛に興味をお持ちにならないでは、第三者が見ていても物足らないことである。恋愛をする資格がないように思われているわれわれでさえもずいぶん女のことでは好奇心が動くのであるからと惟光は主人をながめていた。
  Oboye koso omokaru beki ohom-mi no hodo nare do, ohom-yohahi no hodo, hito no nabiki mede kikoye taru sama nado omohu ni ha, suki tamaha zara m mo, nasakenaku sau-zausikaru besi kasi, hito no uke-hika nu hodo ni te dani, naho, sari-nu-beki atari no koto ha, konomasiu oboyuru mono wo, to omohi wori.
1.2.9  「 もし、見たまへ得ることもやはべるとはかなきついで作り出でて消息など遣はしたりき。書き馴れたる手して、 口とく返り事などしはべりきいと口惜しうはあらぬ若人どもなむはべるめる
 「もしや、何か発見いたすこともありましょうかと、ちょっとした機会を作って、恋文などを出してみました。書きなれている筆跡で、素早く返事など寄こしました。たいして悪くはない若い女房たちがいるようでございます」
 「そんなことから隣の家の内の秘密がわからないものでもないと思いまして、ちょっとした機会をとらえて隣の女へ手紙をやってみました。するとすぐに書き馴れた達者な字で返事がまいりました、相当によい若い女房もいるらしいのです」
  "Mosi, mi tamahe uru koto mo ya haberu to, hakanaki tuide tukuri-ide te, seusoko nado tukahasi tari ki. Kaki-nare taru te site, kuti-toku kaheri-goto nado si haberi ki. Ito kutiwosiu ha ara nu wakaudo-domo nam haberu meru."
1.2.10  と聞こゆれば、
 と申し上げると、
 「おまえは、なおどしどし恋の手紙を送ってやるのだね。それがよい。その人の正体が知れないではなんだか安心ができない」
 と源氏が言った。
  to kikoyure ba,
1.2.11  「 なほ言ひ寄れ。尋ね寄らでは、 さうざうしかりなむ」とのたまふ。
 「さらに近づけ。突き止めないでは、きっと物足りない気がしよう」とおっしゃる。
 家は下の下に属するものと品定めの人たちに言われるはずの所でも、そんな所から意外な趣のある女を見つけ出すことがあればうれしいに違いないと源氏は思うのである。
  "Naho, ihi-yore. Tadune-yora de ha, sau-zausikari na m." to notamahu.
1.2.12   かの、下が下と、人の思ひ捨てし住まひなれど、 その中にも、思ひのほかに口惜しからぬを見つけたらばと、 めづらしく思ほすなりけり
 あの、下層の最下層だと、人が見下した住まいであるが、その中にも、意外に結構なのを見つけたらばと、心惹かれてお思いになるのであった。
  Kano, simo-ga-simo to, hito no omohi-sute si sumahi nare do, sono naka ni mo, omohi no hoka ni kutiwosikara nu wo mituke tara ba to, medurasiku omohosu nari keri.
注釈137わづらひはべる人以下「あつかひてなむ」まで、惟光の挨拶。「わづらひはべる人」とは惟光の母親のこと。1.2.2
注釈138見たまへあつかひてなむ複合語「見あつかふ」の間に謙譲の補助動詞「たまへ」下二段の連用形が介在した形。係助詞「なむ」の下に「はべりける」あるいは「えまうで来ざりける」などの語句が省略。言いさした形。1.2.2
注釈139近く参り寄りて聞こゆ内緒話のおもむき。1.2.3
注釈140仰せられしのちなむ以下「しるく見えはべる」まで、惟光の報告。「仰せ」の主語は源氏。仰せ言。過去の助動詞「し」連体形。係助詞「なむ」は「呼びて問はせ」に係るが、下文に続いて結びの流れ。1.2.4
注釈141いと忍びて以下「知らせず」まで、隣の事情を知っている者の話を間接的に惟光が語る。前の、宿守の揚名介の家で宮仕え人が行き来しているという情報とどう関わるのか、やや不分明。あれは誤情報で、これが真実ということか。1.2.4
注釈142人なむあるべけれど係助詞「なむ」は「ある」連体形に係るが、下文「べけれど」に続いて結びの流れ。1.2.4
注釈143さらに家の内の人にだに知らせず副詞「さらに」は打消の助動詞「ず」終止形、と呼応して、ぜんぜん、まったく--ない、の意を表す。副助詞「だに」最小限、--にさえ、の意を表す。1.2.4
注釈144となむ申す係助詞「なむ」は「申す」連体形に係る、係り結びの法則。1.2.4
注釈145時々中垣のかいま見しはべるに以下、惟光の観察の報告である。丁寧の補助動詞「はべり」は謙譲のニュアンス。接続助詞「に」順接、--すると、の意。1.2.5
注釈146げに若き女どもの副詞「げに」は隣のことを知っている者が申したとおり、の意。1.2.5
注釈147褶だつもの褶<しびら>は上裳。主人の前に出る時に下裳の上に付けるという。それを付けていたというので、主人のいることが分かる。1.2.5
注釈148引きかけて接続助詞「て」順接、原因・理由を表す。--ところから、--ので。1.2.5
注釈149かしづく人はべるなめり若い女たちがお仕えしている主人。「なめり」は断定の助動詞「なる」連体形の「る」が撥音便化しさらに無表記の形と推量の助動詞「めり」終止形は話者惟光の主観的のニュアンス。1.2.5
注釈150さし入りてはべりしに「はべり」連用形は「あり」の丁寧語。過去の助動詞「し」連体形、下に「時」などの語が省略。格助詞「に」は時を表す。1.2.6
注釈151顔こそいとよくはべりしか係助詞「こそ」は過去の助動詞「しか」已然形に係る、係り結びの法則。強調のニュアンスを添える。1.2.6
注釈152ある人びとも「ある」は、側にいる意。1.2.6
注釈153さまなどなむしるく見えはべる係助詞「なむ」は「はべる」連体形に係る、係り結びの法則。強調のニュアンスを添える。1.2.6
注釈154知らばや終助詞「ばや」は自分の願望を表す。1.2.7
注釈155思ほしたり「思ほし」連用形は「思ふ」の尊敬表現。完了の助動詞「たり」終止形。1.2.7
注釈156おぼえこそ重かるべき御身のほどなれど以下「おぼゆるものを」まで、惟光の心に即した視点からの叙述。源氏に対する感想。係助詞「こそ」は「なれ」已然形に係るが、接続助詞「ど」に続いて結びの流れとなっている。1.2.8
注釈157さまなど思ふには主語は惟光。自問自答。1.2.8
注釈158好きたまはざらむも主語は源氏。源氏がそのような女性達を。自分惟光のことには敬語はつかない。1.2.8
注釈159さうざうしかるべしかし推量の助動詞「べし」終止形、終助詞「かし」。句点でもよいところであるが、惟光の心中に沿った一連の文章なので、読点で処理した。1.2.8
注釈160人のうけひかぬほどにてだに「人」は世間の人、貴族一般。打消の助動詞「ぬ」連体形。「ほど」は低い身分の女性。副助詞「だに」最低限を表し、後文に、まして源氏の君は、というニュアンスを生む。1.2.8
注釈161なほさりぬべきあたりのことは貴族の女性としてある程度の身分の女性には、という意。1.2.8
注釈162このましうおぼゆるものを主語は惟光自身、一般論。上文の「だに」と呼応して、まして源氏の君はわたし以上に関心を寄せられることだろう、の意。接続助詞「を」順接、原因・理由を表す。1.2.8
注釈163と思ひをり主語は惟光。1.2.8
注釈164もし見たまへ得ることもやはべると以下「若人どもなむはべるめる」まで、惟光の詞。「見たまへ得る」の「たまへ」連用形は謙譲補助動詞。複合動詞「見得る」の間に介在した形。係助詞「も」強調、係助詞「や」疑問の意。「はべる」連体形は「あり」の丁寧語。わたし惟光が何か発見できることがございましょうかと、の意。1.2.9
注釈165はかなきついで作り出でて夕顔の宿の別の女に関係をつけたことをいう。1.2.9
注釈166消息など遣はしたりき完了の助動詞「たり」連用形、過去の助動詞「き」終止形、自分の過去の体験のニュアンス。以下にも「しはべりき」と出てくる。1.2.9
注釈167口とく返り事などしはべりき返歌の反応が早いということは上出来。1.2.9
注釈168いと口惜しうはあらぬ若人どもなむはべるめる仕えてる女房たちが優れていれば、その女主人の人柄教養も想像され保証される。係助詞「なむ」は推量の助動詞「める」連体形、話者の主観的推量の意に係る、係り結びの法則。強調のニュアンスを添える。1.2.9
注釈169なほ言ひ寄れ以下「さうざうしかりなむ」まで、源氏の詞。惟光に更に探索を命じる。1.2.11
注釈170さうざうしかりなむ形容「さうざうしかり」連用形。「なむ」は、完了の助動詞「な」未然形、確述の意と推量の助動詞「む」終止形、強調の意を表す。1.2.11
注釈171かの下が下と以下「見つけたらば」まで、源氏の心。「帚木」巻に「下のきざみといふ際になれば、ことに耳たたずかし」とあったことを受ける。「人の思ひ捨てし」の「人」は頭中将である(「帚木」第一章二段)。1.2.12
注釈172その中にも思ひのほかに口惜しからぬを見つけたらば同じく「帚木」巻に「さびしくあばれたらむ葎の門に、思ひの外にらうたげならむ人の閉ぢられたらむこそ、限りなくめづらしくはおぼえめ」(第一章三段)を受ける。1.2.12
注釈173めづらしく思ほすなりけり「めづらしく」連用形は、賞美する価値がある、心が惹かれる、意。「おもほす」連体形は「思ふ」の尊敬表現。断定の助動詞「なり」連用形、「過去の助動詞「けり」終止形。1.2.12
校訂4 見たまへ 見たまへ--*見たまひ 1.2.2
校訂5 かごと かごと--かう(う/$こ<朱>)と 1.2.5
Last updated 6/25/2003
渋谷栄一校訂(C)(ver.1-3-1)
Last updated 6/25/2003
渋谷栄一注釈(ver.1-2-1)
Last updated 6/25/2203
渋谷栄一訳(C)(ver.1-3-1)
現代語訳
与謝野晶子
電子化
上田英代(古典総合研究所)
底本
角川文庫 全訳源氏物語
渋谷栄一訳
との突合せ
宮脇文経

2003年8月14日

Last updated 6/25/2003
Written in Japanese roman letters
by Eiichi Shibuya (C) (ver.1-4-1)
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